たった数日の睡眠不足で血糖は乱れる?インスリン抵抗性と糖尿病リスクの関係

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血糖値が気になり始めたら、睡眠も見直したい

健康診断の結果を見たとき、以前より「血糖値」や「HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)」の数字が気になるようになってきた。
そんな人は少なくないかもしれません。

血糖値が高めと言われると、まず思い浮かぶのは食事や運動でしょう。
甘いものを控えた方がいいのか。夜の炭水化物を減らした方がいいのか。そろそろ運動を始めないといけないのか。そう考えるのは自然なことです。

もちろん、食事や運動は血糖管理の基本です。
ただ、それと同じように見直したい生活習慣があります。

それが、睡眠です。

睡眠不足は、眠気や集中力の低下だけを招くものではありません。近年の研究では、睡眠不足が血糖値を調整する仕組みにも悪影響が出ることがわかってきました。

血糖値は、体の中でどのように調整されているのか

睡眠不足が血糖値にどう関わるのかを理解するために、まずは血糖値が体の中でどのように調整されているのかを確認しておきましょう。

私たちがご飯やパン、麺類などの糖質を含む食事をとると、消化の過程で「ブドウ糖」に分解され、血液の中に入ります。
この血液中のブドウ糖の濃さを表すのが「血糖値」です。

ブドウ糖は、脳や筋肉、内臓が働くための大切なエネルギー源です。
ただし、血液の中にあるだけでは、体はうまく利用できません。血液中のブドウ糖を、筋肉や脂肪、肝臓などの細胞に取り込む必要があります。

そこで重要な役割を果たすのが、インスリンというホルモンです。

インスリンは、膵臓から分泌されるホルモンで、血液中のブドウ糖を細胞に取り込ませる働きを持っています。
食事をして血糖値が上がるとインスリンが分泌され、細胞がブドウ糖を受け取りやすくなります。すると、血液中に増えたブドウ糖が少しずつ減り、上がった血糖値も下がっていきます。

つまり、食後の体では、

食事によって血糖値が上がる
インスリンが分泌される
細胞がブドウ糖を取り込む
血糖値が下がる

という流れが起きています。

血糖値が大きく乱れずに保たれているのは、この仕組みが体の中で働いているからです。

たった数日の睡眠不足でも、インスリンは効きにくくなる

ところが、睡眠が不足すると、血糖値を下げるために欠かせないインスリンが効きにくくなることがあります。

本来であれば、食事によって血糖値が上がると、膵臓からインスリンが分泌されます。そしてインスリンの働きによって、血液中のブドウ糖は細胞に取り込まれ、血糖値は下がっていきます。

ところが、インスリンが効きにくくなると、同じようにインスリンが分泌されても、ブドウ糖が細胞に取り込まれにくくなります。
その結果、血液中にブドウ糖が残りやすくなり、血糖値が下がりにくくなります。

このように、インスリンが分泌されているのに、その働きが十分に発揮されにくくなる状態を、「インスリン抵抗性」といいます。

重要なのは、この変化が、長年の生活習慣の乱れを経て初めて起きるものではないということです。
研究では、一晩から数日程度の睡眠不足でも、インスリンの効きやすさを表す「インスリン感受性」が低下することが報告されています。

オランダのライデン大学医療センターなどの研究チームは、健康な成人を対象に、通常の睡眠をとった場合と、一晩だけ睡眠時間を4時間に制限した場合を比較しました。
その結果、たった一晩の睡眠制限でも、インスリン感受性が低下したことが確認されました。

さらに、米国ペンシルベニア州立大学などの研究では、健康な若い男性が1週間にわたり、1日5時間の睡眠を続けた場合の影響が調べられました。
その結果、睡眠を十分にとった場合と比べて、インスリン感受性が低下したことが報告されています。

もちろん、数日寝不足になっただけで、すぐに糖尿病になるわけではありません。
しかし、こうした研究は、血糖値を整える体の仕組みが、短期間の睡眠不足にも影響を受けることを示しています。

「忙しい時期だけだから」と睡眠を削る生活は、頭がぼんやりするだけでなく、体の中では血糖を処理する働きにも負担をかけている可能性があるのです。

慢性的な睡眠不足は、糖尿病リスクとも関係する

短期間の睡眠不足でも、血糖値を整える働きに影響が出ることがわかってきました。
では、睡眠不足が長く続いた場合はどうでしょうか。

2015年に学術誌『Diabetes Care』に掲載された、中国・華中科技大学同済医学院で栄養・公衆衛生を研究するジーレイ・シャン(Zhilei Shan)氏らのメタ解析では、睡眠時間と2型糖尿病の発症リスクとの関係が検討されました。
この研究では、10本の論文に含まれる11件の報告、合計48万2,502人分のデータがまとめられています。その結果、1日7時間睡眠を基準にすると、7時間未満の範囲では、睡眠時間が1時間短くなるごとに2型糖尿病の発症リスクが約9%高くなることが示されました。

米国疾病予防対策センター(CDC)も、睡眠不足は糖尿病を含む慢性疾患リスクと関連すると説明しています。

また、睡眠時間の短さだけでなく、眠る時間帯そのものが不規則になりやすい働き方も、糖尿病リスクと関係することが報告されています。

2024年に学術誌『BMC Endocrine Disorders』に掲載された、寧波鄞州第二医院の内分泌科に所属するフェイ・シエ(Fei Xie)氏らのメタ解析では、夜勤を伴う勤務と2型糖尿病リスクとの関係が検討されました。
この研究では、9本の論文に含まれる、長期間にわたって人々の健康状態を追跡した研究(コホート研究)10件、23万5,800人を超える参加者のデータがまとめられ、夜勤に従事する人では、日勤の人に比べて2型糖尿病の発症リスクが30%高いことが示されました。

夜勤や交代勤務では、本来眠る時間に起き、本来活動する時間に眠ることになります。
そのため、睡眠時間が不足しやすいだけでなく、体の働きを24時間のリズムに合わせて調整している体内時計も乱れやすくなります。こうした生活リズムの乱れが、血糖調節に不利に働いている可能性があります。

短期間の睡眠不足は、インスリンが効きにくくなるという形で血糖調節に影響します。
そして、睡眠不足が慢性的に続いたり、夜勤のように生活リズムの乱れが重なったりすると、長い目では糖尿病リスクとも関係してくるのです。

睡眠不足は、血糖を上げやすい体の状態にも

睡眠不足が血糖値に影響する理由は、インスリンが効きにくくなることだけではありません。
もう一つ関わっているのが、コルチゾールというホルモンです。

コルチゾールは、朝の目覚めや日中の活動を支えるために必要なホルモンです。
一方で、強いストレスがかかったときにも分泌されるため、「ストレスホルモン」と呼ばれることもあります。

このコルチゾールには、体がすぐにエネルギーを使えるように、肝臓からブドウ糖を血液中へ送り出す働きがあります。
つまり、コルチゾールが高い状態では、血糖値が上がりやすくなるのです。

1997年に学術誌『Sleep』に掲載された、シカゴ大学医学部に所属していたレイチェル・ルプルー(Rachel Leproult)氏らの研究では、健康な若い男性を対象に、通常どおり眠った場合、睡眠時間を短くした場合、一晩徹夜した場合で、コルチゾールの分泌が比較されました。
その結果、睡眠時間を短くした場合と、一晩徹夜した場合のどちらでも、翌日の夕方には、通常どおり眠った場合に比べて血液中のコルチゾール濃度が高くなっていました。睡眠時間を短くした場合は約37%、一晩徹夜した場合は約45%の上昇が報告されています。

コルチゾールについては、睡眠とストレスを扱う別の記事で詳しく見ていきます。
ここでは、睡眠不足はインスリンの働きを弱めるだけでなく、血糖値を上げやすいホルモンの動きにも影響すると押さえておきましょう。

睡眠不足は、食欲も乱して血糖管理を難しくする

睡眠不足は、血糖値を調整する体の仕組みに影響するだけではありません。
食欲そのものを乱し、血糖管理をさらに難しくすることもあります。

食欲の調整に関わる代表的なホルモンに、レプチンとグレリンがあります。

レプチンは、主に脂肪細胞から分泌されるホルモンで、脳に「十分にエネルギーが足りている」と伝え、食欲を抑える働きに関わります。
一方、グレリンは、主に胃から分泌されるホルモンで、空腹感を高め、食べたい気持ちを強める働きに関わります。

2004年に学術誌『PLOS Medicine』に掲載された、スタンフォード大学医学部などに所属していたシャハラード・タヘリ(Shahrad Taheri)氏らの研究では、睡眠時間とレプチン、グレリンの関係が調べられました。
その結果、睡眠時間が短い人では、食欲を抑える働きに関わるレプチンが低く、空腹感を高めるグレリンが高い傾向が示されました。研究では、睡眠時間が5時間の人は8時間の人と比べて、レプチンが約15.5%低く、グレリンが約14.9%高いと推定されています。

さらに、2016年に学術誌『Obesity』に掲載された、ジョジアン・ブルサール(Josiane L. Broussard)氏らの研究では、健康なやせ型の男性19人を対象に、睡眠時間を制限した場合の食欲ホルモンと食事量の変化が調べられました。
その結果、睡眠を制限したときにはグレリンの分泌が増え、間食による摂取カロリーが平均328キロカロリー増加しました。増えた分の多くは炭水化物由来で、夕方のグレリン上昇が大きい人ほど、甘いものから多くのカロリーをとる傾向も示されました。

寝不足の日に、甘い菓子パンやお菓子、こってりした食事が妙に魅力的に感じられることがあります。
それは単なる気分の問題ではなく、睡眠不足によって食欲を調整する体の仕組みが乱れている可能性があるのです。

睡眠不足が続くと、

インスリンが効きにくくなり、血糖値が下がりにくくなる
コルチゾールの影響で、血糖値が上がりやすい状態に傾く
食欲が乱れ、糖質やカロリーをとりすぎやすくなる

という複数の変化が重なります。

その結果、血糖値を安定させることが、さらに難しくなってしまうのです。

まとめ:睡眠不足は、血糖値を乱しやすい状態を重ねてしまう

睡眠不足は、血糖値の調整にも深く関わっています。

が続くと、血糖値を下げるために欠かせないインスリンが効きにくくなります。さらに、睡眠不足が慢性化すると、2型糖尿病の発症リスクが高くなることも、複数の大規模な研究で示されています。

加えて、寝不足の体では、コルチゾールの分泌が高まりやすくなり、血糖値を上げる方向に働くことがあります。食欲を調整するホルモンにも影響が及び、甘いものや高カロリーなものをとりすぎやすくなることもあります。

つまり睡眠不足は、

血糖値を下げにくくする
血糖値を上げやすい体内環境をつくる
食べすぎを招きやすくする

という複数の経路から、血糖管理を難しくしてしまうのです。

健康診断で血糖値やHbA1cの数値が気になり始めたとき、食事や運動だけでなく、
最近、睡眠不足ではないか?
という視点も持っておくことが大切です。

睡眠不足は、インスリンの働きや食欲の調整に影響するだけでなく、コルチゾールの分泌を通じて、体をストレスに反応しやすい状態にも傾けます。
そして、こうしたストレス反応と深く関わっているのが、体の緊張と休息の切り替えを担う自律神経です。

睡眠不足と自律神経の関係、そして交感神経が休まらない体で何が起きるのかについては、以下の記事で詳しく解説しています。

→  睡眠不足と自律神経の関係。交感神経が休まらない体で何が起きるのか?

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