睡眠不足はがんリスクと関係する?ナチュラルキラー細胞と免疫の働き

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睡眠不足は、免疫の働きにも関係する

睡眠不足が続くと、体調を崩しやすくなる。

これは、多くの人が経験的に感じていることかもしれません。忙しい時期に睡眠時間が短くなり、そのあと喉の違和感やだるさが出る。仕事が立て込んでいるときほど、風邪をひきやすい。そんな経験がある人もいるでしょう。

睡眠と免疫は、深く関係しています。

免疫というと、ウイルスや細菌から体を守る働きを思い浮かべるかもしれません。しかし、免疫の役割はそれだけではありません。体の中では、外から入ってきたものだけでなく、内側で起きた異常な変化にも対応する仕組みが働いています。

睡眠不足や睡眠リズムの乱れは、この免疫の働きにも影響します。まずは、体の中で異常な細胞を見つける仕組みから見ていきます。

体の中では、異常な細胞を見つける仕組みが働いている

私たちの体では、日々、古くなった細胞が入れ替わっています。その過程で、DNAに傷がついたり、異常な変化を起こした細胞が生まれたりすることがあります。

多くの場合、体にはこうした異常を修復したり、問題のある細胞を処理したりする仕組みがあります。異常な細胞が生まれたからといって、すぐに病気になるわけではありません。

その中には、体のルールから外れて増えやすくなる細胞もあります。こうした変化が積み重なると、がんの発生と関係してきます。

ここで働いている体の仕組みの一つが、免疫です。

免疫は、外から入ってきたウイルスや細菌だけを相手にしているわけではありません。体の中で異常な変化を起こした細胞を見つけ、処理する働きにも関わっています。

この働きに関係する免疫細胞の一つが、ナチュラルキラー細胞です。

ナチュラルキラー細胞とは何か

ナチュラルキラー細胞は、白血球の一種です。

白血球とは、体を守る免疫細胞の集まりです。外から入ってきたウイルスや細菌に対応したり、体の中で異常な変化を起こした細胞を見つけたりします。

ナチュラルキラー細胞は、その中でも、異常な細胞を早い段階で見つけて処理する働きに関係しています。ウイルスに感染した細胞や、がん化に関わる異常な細胞も、その対象になります。

「ナチュラルキラー」という名前は少し強く聞こえますが、ここで大切なのは名前の印象ではありません。ナチュラルキラー細胞は、体の中で異常な細胞を見つけて処理する免疫細胞の一つです。

もちろん、この細胞だけで体を守っているわけではありません。免疫は、いくつもの細胞や物質が関わる複雑な仕組みです。

その中でナチュラルキラー細胞は、睡眠不足と免疫の関係を考えるうえで、研究でもよく取り上げられてきました。

睡眠不足でナチュラルキラー細胞の働きは変わるのか

睡眠不足とナチュラルキラー細胞の関係を調べた研究があります。

1994年、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のマイケル・アーウィン氏らは、健康な成人を対象に、ふだんより睡眠時間を短くしたとき、ナチュラルキラー細胞の働きがどう変わるかを調べました。

その結果、睡眠時間を短くした後には、ナチュラルキラー細胞の活性が低下したことが報告されています。ここでいう「活性」とは、ナチュラルキラー細胞がどのくらい働いているかを示す指標です。

さらに、回復睡眠をとった後には、その働きが元に戻ったことも報告されています。

また、1996年にも、アーウィン氏らは睡眠時間を短くした実験で、ナチュラルキラー細胞の働きが低下したことを報告しています。

これらの研究から、睡眠不足は短期間でも免疫の働きに影響することがわかります。

ただし、ナチュラルキラー細胞の働きが一時的に下がったからといって、それだけですぐに病気が決まるわけではありません。人間の体には、いくつもの防御システムがあります。

大事なのは、睡眠不足が続くと、体を守る仕組みの一部に負担がかかるということです。

睡眠時間とがんリスクを調べた日本の研究

睡眠時間とがんリスクの関係については、日本でも研究が行われています。

2008年、東北大学の研究チームは、宮城県大崎保健所管内の住民を対象に、睡眠時間と乳がんリスクの関係を調べました。

この研究は、たくさんの人を何年も追跡し、生活習慣と病気の発症との関係を調べるタイプの研究です。こうした研究は、専門的には「コホート研究」と呼ばれます。

対象となったのは、40歳から79歳の日本人女性23,995人です。研究チームは、ふだんの睡眠時間と、その後の乳がん発症との関係を調べました。

その結果、7時間睡眠の人と比べて、6時間以下の睡眠の人では、乳がんリスクが高い傾向が報告されています。具体的には、6時間以下の睡眠では、乳がんリスクが1.62倍だったとされています。

人の健康には、体質、仕事、ストレス、飲酒、喫煙、運動、食事など、さまざまな要因が関わります。そのため、睡眠時間だけを原因として切り分けることは難しい面があります。

それでも、日本人を対象にした大規模な追跡研究で、短い睡眠時間と乳がんリスクの関連が示されたことは、睡眠とがんの関係を考えるうえで参考になります。

一方、前立腺がんについても、日本人男性を対象にした研究があります。

同じ大崎地域の研究では、40歳から79歳の日本人男性22,320人を対象に、睡眠時間と前立腺がんリスクの関係が調べられました。

この研究では、1日9時間以上眠る人は、それより短い睡眠時間の人と比べて、前立腺がんリスクが低い傾向が報告されています。

睡眠時間とがんリスクの関係は、がんの種類によって結果が同じとは限りません。また、睡眠時間だけでがんリスクを説明することもできません。

それでも、日本人を対象にした追跡研究で、睡眠時間と一部のがんリスクとの関連が調べられていることは、睡眠不足と健康リスクを考えるうえで参考になります。

まとめ:睡眠不足は、免疫の働きとも関係している

がんには、年齢、遺伝、喫煙、飲酒、感染症、肥満、食事、運動、環境要因など、多くの要因が関わります。睡眠時間だけで、がんリスクを説明することはできません。

それでも、睡眠不足とがんリスクの関係を考えるうえで、免疫の働きは外せません。

ナチュラルキラー細胞は、体の中で異常な細胞やウイルスに感染した細胞を見つけて処理する免疫細胞の一つです。研究では、睡眠時間を短くしたあとに、このナチュラルキラー細胞の働きが低下したことが報告されています。

また、日本人を対象にした追跡研究では、短い睡眠時間と乳がんリスクとの関連も報告されています。

ここで見るべきなのは、「睡眠不足だけでがんになるかどうか」ではありません。睡眠不足によって、体の中で異常な変化を見つける免疫の働きが鈍ることがある。その延長線上で、睡眠とがんリスクの関係が研究されているということです。

参考URL

・米国国立がん研究所(NCI):ナチュラルキラー細胞の基本的な定義
National Cancer Institute: natural killer cell
https://www.cancer.gov/publications/dictionaries/cancer-terms/def/natural-killer-cell
・学術誌『Psychosomatic Medicine』:部分的な睡眠不足によるナチュラルキラー細胞活性の低下を調べた研究
Partial sleep deprivation reduces natural killer cell activity in humans
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7871104/
・学術誌『The FASEB Journal』:睡眠不足によるナチュラルキラー細胞活性と免疫反応への影響を調べた研究
Partial night sleep deprivation reduces natural killer and cellular immune responses in humans
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8621064/
・学術誌『British Journal of Cancer』:日本人女性を対象に睡眠時間と乳がんリスクの関係を調べた研究
Sleep duration and the risk of breast cancer: the Ohsaki Cohort Study
https://www.nature.com/articles/6604684
・米国国立医学図書館(NLM):日本人男性を対象に睡眠時間と前立腺がんリスクの関係を調べた研究
Sleep duration and the risk of prostate cancer: the Ohsaki Cohort Study
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18542076/

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