炎症は、体を守るために起こる反応
「炎症」と聞くと、風邪をひいたときの喉の痛みや、ケガをしたときの赤み、腫れ、熱っぽさを思い浮かべる人が多いかもしれません。
炎症とは、ウイルスや細菌が体に入ったときや、皮膚や筋肉など体の一部が傷ついたときに、外敵を排除したり、傷ついた部分を修復したりするために起こる体の反応です。
このような、体を守るために起こる一連の反応を、炎症反応といいます。
たとえば、皮膚に傷ができると、体はその場所に免疫細胞を集めます。免疫細胞とは、ウイルスや細菌などの外敵を見つけたり、傷ついた部分の修復に関わったりする細胞です。白血球は、その代表的な免疫細胞の一つです。
免疫細胞が集まると、その場所の血流が増えたり、炎症に関わる物質が出されたりします。その結果として、赤み、腫れ、熱っぽさ、痛みなどが起こります。
炎症は、そもそも悪いものではありません。体を守り、傷ついた場所を修復するために必要な働きです。
睡眠不足が続くと、この炎症反応の調整にも影響が出ることが研究で報告されています。
慢性炎症とは、弱い炎症反応が長く続く状態
炎症には、大きく分けて「急性炎症」と「慢性炎症」があります。
急性炎症とは、ケガや感染などに対して短期間で起こる炎症反応です。
転んで膝をすりむいたときに皮膚が赤くなったり、腫れたり、熱を持ったりするのは、傷ついた場所を修復するために体が炎症反応を起こしている状態です。風邪をひいたときに喉が赤くなったり、痛くなったりするのも、ウイルスに対抗するために起こる炎症反応の一つです。
急性炎症は、原因が取り除かれ、修復が進めばおさまっていきます。
一方、慢性炎症は少し違います。
慢性炎症とは、弱い炎症反応が長いあいだ続いている状態です。数日で終わる反応ではなく、数か月、場合によっては年単位で続くことがあります。
急性炎症のように赤く腫れたり、強く痛んだりするとは限らないため、自分では気づきにくいことがあります。
弱い炎症反応でも、数か月から年単位で続けば、体にとっては小さな負担が積み重なっていきます。
そして近年、睡眠不足はこの慢性炎症と関係する要因の一つとして研究されています。
睡眠不足が続くと、免疫細胞の働き方や炎症に関わる物質の出方が変わり、血管や細胞に負担がかかりやすくなることが報告されています。
睡眠不足や睡眠の乱れと炎症反応の関係
睡眠不足と慢性炎症の関係を調べるには、体の中で炎症反応がどのくらい起きているかを見る必要があります。
その目安として使われるものに、IL-6(インターロイキン6)やCRP(C反応性タンパク質)などがあります。
IL-6とは、サイトカインの一つです。サイトカインとは、免疫細胞などが出すタンパク質の総称で、いくつもの種類があります。
サイトカインは、免疫細胞どうしの連絡や、炎症反応に関わります。炎症反応を強めるものもあれば、その反応をおさえるものもあります。
IL-6は、その中でも炎症反応を強める働きを持つサイトカインの一つです。
一方、CRPは、炎症反応の強さを見る指標として使われるタンパク質です。血液検査でも、体の中で炎症反応が起きているかを見るために使われます。
IL-6やCRPは、数値が高いほど、体の中で炎症反応が強く起きている目安になります。
2016年、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のマイケル・アーウィン氏らは、睡眠と炎症反応の関係を調べた72件の研究をまとめて分析しました。対象者は、合計で5万人以上でした。
この分析では、日常的な睡眠不足、不眠などの睡眠の乱れ、睡眠時間が長すぎる状態、研究のために一時的に睡眠時間を短くした場合などに分けています。
結果を見ると、不眠などの睡眠の乱れは、IL-6とCRPの上昇と関連していました。
日常的な睡眠不足は、CRPの上昇と関連していました。一方で、IL-6との関連ははっきりしていませんでした。
研究のために一時的に睡眠時間を短くした場合は、IL-6やCRPの明らかな上昇とは関連していませんでした。
この結果から見ると、炎症反応との関係で問題になりやすいのは、たまたま数日だけ睡眠が短くなった場合よりも、日常的な睡眠不足や、不眠のように睡眠が乱れている状態です。
つまり慢性炎症を考えるうえでは、「一晩だけ眠れなかったこと」よりも、睡眠不足や睡眠の乱れが生活の中で続いていることが重要になります。
慢性炎症が続くと、血管や細胞に何が起こるのか
炎症反応は、本来、体を守るための働きです。
ウイルスや細菌が入ってきたときには、外敵を処理する。
体の一部が傷ついたときには、傷ついた場所の修復を始める。
この反応が必要な場面で起こり、短い期間でおさまるなら、体にとって大切な働きです。
これは、薬の働きに少し似ています。
体調が悪いときに薬を使えば、症状をおさえたり、回復を助けたりします。必要な場面で使うから、体の助けになります。
しかし、体調が悪くないのに、必要のない薬を飲み続けたらどうでしょうか。
本来は助けになるものでも、必要のない場面で飲み続ければ、体にとって余計な負担になります。
炎症反応もこれに近いものです。
感染やケガがあるときには、炎症反応は必要です。外敵を処理し、傷ついた場所の修復を始めるためです。
しかし、処理する外敵や修復する傷がはっきりしないのに、炎症反応が長く続くと、体にとって余計な負担になります。
これが、慢性炎症の問題です。
血管で考えると、血管は全身に血液を届ける通り道です。
血液は、酸素や栄養を運び、体のすみずみに届けています。そのため、血管はしなやかに広がったり縮んだりしながら、血液を流し続ける必要があります。
ところが、慢性炎症が続くと、血管にも炎症反応の影響が及びます。
本来なら、血管は血液を流すために働いていればよい場所です。そこに、外敵を処理したり、傷を修復したりするための反応が長く関わり続けると、血管は本来の働きを保ちにくくなります。
その状態が長く続けば、血管はしなやかさを保ちにくくなり、血液の流れにも影響が出やすくなります。
細胞についても同じです。
私たちの体は、筋肉も、内臓も、脳も、細胞が集まってできています。
それぞれの細胞は、毎日、役割を果たしながら、細胞自身の状態を整えています。
しかし、炎症反応が長く続くと、細胞のまわりでも、外敵を処理したり、傷ついた場所を修復したりするための反応が続きます。
処理する外敵や修復する傷がはっきりしないのに、その反応が続けば、細胞は本来の働きを保ちにくくなります。
慢性炎症とは、体の中で何かが一気に壊れる状態ではありません。
必要なときだけ働けば体を守る炎症反応が、必要のない場面で弱く長く続いてしまう。
その結果、血管はしなやかさを保ちにくくなり、細胞は本来の働きを保ちにくくなる。
これが慢性炎症と全身の健康リスクが関係する理由です。
まとめ:慢性炎症は、体の中で静かに続く負担
慢性炎症とは、弱い炎症反応が長く続いている状態です。
炎症反応は、本来、体を守るために必要な働きです。感染やケガがあるときには、外敵を処理し、傷ついた場所の修復を始めます。
しかし、処理する外敵や修復する傷がはっきりしないまま炎症反応が続くと、体にとって余計な負担になります。
薬と同じで、必要なときに働けば助けになりますが、必要のない場面で続けば、体には負担になります。
慢性炎症がやっかいなのは、強い痛みや高熱のようにわかりやすく出るとは限らないことです。数か月、場合によっては年単位で続きながら、血管や細胞の働きに少しずつ影響します。
慢性炎症は、動脈硬化などの血管の病気、糖尿病、がん、認知機能の低下、自己免疫疾患など、さまざまな病気との関係が研究されています。
もちろん、それらの病気が慢性炎症だけで起こるわけではありません。けれども、体の中で炎症反応が長く続くことは、全身の健康を考えるうえで無視できない要素です。
睡眠不足は、この炎症反応とも関係していることが研究で報告されています。
そして、睡眠不足が影響するのは、血管や細胞だけではありません。
脳でも、睡眠中に重要なメンテナンスが行われています。特に近年注目されているのが、アルツハイマー病と関係するアミロイドβというタンパク質です。
睡眠不足が続くと、脳の老廃物処理にも影響し、アミロイドβが脳に残りやすくなる可能性が研究されています。
睡眠不足とアルツハイマー病の関係、そしてアミロイドβと脳の老廃物処理については、こちらの記事で詳しく見ていきます。
→ 睡眠不足とアルツハイマー病は関係する?アミロイドβと脳内のゴミ処理
参考URL
- 米国国立医学図書館(NLM):睡眠の乱れ・睡眠時間と炎症反応の関係をまとめた研究
Sleep Disturbance, Sleep Duration, and Inflammation: A Systematic Review and Meta-Analysis of Cohort Studies and Experimental Sleep Deprivation
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26140821/ - 学術誌 『Biological Psychiatry』:睡眠の乱れ・睡眠時間とCRP、IL-6などの炎症指標との関係をまとめた研究
Sleep Disturbance, Sleep Duration, and Inflammation: A Systematic Review and Meta-Analysis of Cohort Studies and Experimental Sleep Deprivation
https://www.biologicalpsychiatryjournal.com/article/S0006-3223(15)00437-0/abstract - 米国国立医学図書館(NLM):慢性炎症が数か月から年単位で続くことを説明した資料
Chronic Inflammation
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK493173/ - 米国国立医学図書館(NLM):CRPが炎症反応の指標として使われること、IL-6との関係を説明した資料
C-Reactive Protein: Clinical Relevance and Interpretation
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK441843/ - 学術誌 『Nature Medicine』:慢性炎症と心血管疾患、糖尿病、がん、神経変性疾患などとの関係を整理した研究
Chronic inflammation in the etiology of disease across the life span
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7147972/ - 米国国立心肺血液研究所(NHLBI):睡眠不足が免疫細胞の働きや炎症性疾患リスクに与える影響を紹介した資料
NIH-funded study shows sound sleep supports immune function
https://www.nhlbi.nih.gov/news/2022/nih-funded-study-shows-sound-sleep-supports-immune-function
