睡眠不足はなぜ太りやすさにつながるのか? レプチン減少とグレリン増加の関係

目次

夜に食べたくなるのは、意志だけの問題ではない

「最近、お腹周りの脂肪が落ちにくくなった」
「健康診断で、体重や内臓脂肪の数値を指摘されるようになった」

そんな変化が気になっていませんか。

仕事や家庭の用事で帰宅が遅くなり、睡眠時間が削られる。
そんな日が続くと、夜遅くにラーメンや甘いもの、塩気のあるスナック菓子が妙に食べたくなることがあります。

疲れているのに、ついコンビニに寄ってしまう。
食べたあとで、「また食べてしまった」と後悔する。
このような経験がある方も少なくないでしょう。

もちろん、体重の変化には、食事の内容や運動量、飲酒、生活リズムなど、さまざまな要因が関わります。
ただし、睡眠不足も体重の変化と無関係ではありません。

睡眠不足が続くと、食欲を調整するホルモンのバランスが変わり、空腹を感じやすくなったり、食欲を抑えにくくなったりすることが報告されています。
さらに、甘いものや脂っこいもの、炭水化物の多い食品を選びやすくなる可能性も示されています。

睡眠時間が短い人ほど、肥満と関連しやすい

まず知っておきたいのは、睡眠時間の短さと肥満には関連があると報告されていることです。

コロンビア大学メイルマン公衆衛生大学院 疫学部門などの研究者が2005年に発表した大規模調査では、米国の成人を対象に、睡眠時間と肥満の関係が分析されました。

この研究では、1982年から1984年に行われた米国の健康調査データをもとに、約9,500人規模の横断分析と、その後の追跡データを用いた検討が行われています。
その結果、32〜49歳の成人では、7時間睡眠の人と比べて、睡眠時間が7時間未満の人のほうが平均BMIが高く、肥満である可能性も高い傾向が見られました。

この研究は、発表時に「睡眠時間が5時間の人は、標準的な睡眠時間の人と比べて肥満である可能性が約50%高く、4時間以下の人では約73%高かった」と紹介され、大きな注目を集めました。
細かな数値の見せ方は資料によって異なりますが、研究全体として、短い睡眠時間と肥満の関連が確認されたことは重要です。

ここで使われているBMIとは、身長と体重から計算する体格の目安です。
健康診断などでも、肥満度を確認する指標として使われています。

もちろん、このような調査だけで、「睡眠不足が直接、肥満を引き起こす」と断定することはできません。

体重には、食事量、運動量、仕事内容、ストレス、体質など、さまざまな要因が関わります。
それでも、睡眠時間が短い人ほど肥満と関連しやすい傾向が、大規模な成人調査で示されたことは見逃せません。

では、なぜ眠りが足りないと、体重管理が難しくなりやすいのでしょうか。
その鍵を握るのが、食欲に関わる2つのホルモンです。

食欲に関わる2つのホルモン「レプチン」と「グレリン」

私たちの食欲は、気分や意志だけで決まっているわけではありません。
体の中では、空腹や満腹を調整するホルモンが働いています。

その代表が、レプチンとグレリンです。

レプチンは、主に脂肪細胞から分泌されるホルモンです。
体にどれくらいエネルギーが蓄えられているかを脳に伝え、食欲を抑える方向に働きます。
食べすぎを防ぐための、いわば食欲の「ブレーキ」に近い役割です。

一方のグレリンは、主に胃から分泌されるホルモンです。
脳に空腹のサインを送り、食欲を高める方向に働きます。
こちらは、食事をとるよう促す「アクセル」に近い役割です。

通常であれば、この2つのホルモンがバランスよく働くことで、私たちは必要な量を食べ、満足したところで食事を終えやすくなります。

睡眠不足でレプチンは減り、グレリンは増えやすくなる

睡眠時間とレプチン、グレリンの関係を調べた有名な研究があります。

スタンフォード大学とハワード・ヒューズ医学研究所などの研究者が2004年に発表した研究では、1,024人の参加者を対象に、睡眠時間と食欲ホルモンの関係が調べられました。

その結果、睡眠時間が5時間程度の人は、8時間程度の人と比べて、

  • 食欲を高めるグレリンが14.9%高い
  • 食欲を抑えるレプチンが15.5%低い

という結果が示されました。

つまり、睡眠不足では、

  • 空腹を感じやすくなる
  • 食欲を抑える働きが弱まりやすい

という方向に、体の反応が傾く可能性があるということです。

たとえば、いつもなら夕食で十分に満足できるのに、寝不足の日は夜遅くになっても何か食べたくなる。
あるいは、夕食後なのに甘いものが欲しくなる。
このような変化の背景には、睡眠不足によるホルモンの変化が関わっている可能性があります。

さらに、シカゴ大学の研究チームが2004年に発表した実験では、睡眠時間を短くした状態で、レプチンとグレリン、空腹感、食欲の変化が詳しく調べられました。

この研究では、健康な若い男性12人に、2日間は1日4時間睡眠、別の2日間は1日10時間睡眠という条件で過ごしてもらい、体の反応を比較しています。

その結果、睡眠を短くした条件では、

  • レプチンが18%低下
  • グレリンが28%上昇
  • 空腹感が24%増加
  • 食欲が23%増加

していました。
さらに、甘いもの、塩気のあるもの、パンやパスタのような炭水化物を多く含む食品への欲求は、33〜45%高まっていました。

この研究は、対象者が12人と少なく、若い男性だけを対象にしているため、誰にでもそのまま当てはまると断定することはできません。
それでも、睡眠不足が食欲に関わるホルモンだけでなく、実際の「空腹感」や「食べたい気持ち」にまで影響しうることを示した点で、重要な研究です。

「夜中に何か食べたくなるのは、意志が弱いからだ」と考えてしまいがちです。
しかし、眠りが足りていないときには、体の側が食欲を強める方向に傾いている可能性があります。
その状態で食欲を完全に意志だけで抑え続けるのは、決して簡単なことではありません。

睡眠不足は、高カロリーな食べ物を選びやすくする

睡眠不足の影響は、単に「お腹が空きやすくなる」だけではありません。
何を食べたくなるかにも変化が出ることがあります。

シカゴ大学の研究では、睡眠を短くしたときに、甘いものや塩気のあるもの、炭水化物を多く含む食品への欲求が強まる傾向が示されました。
つまり、寝不足のときには、野菜やあっさりした食事よりも、すぐに満足感を得やすい高カロリーな食品に気持ちが向きやすくなる可能性があるのです。

さらに、カリフォルニア大学バークレー校の研究者が2013年に発表した脳画像研究では、睡眠不足の状態になると、高カロリーな食品をより魅力的に感じやすくなることが報告されています。

この研究では、睡眠をとった場合と、徹夜した場合で、参加者が食品画像を見たときの脳の反応が比較されました。
その結果、睡眠不足の状態では、食べ物を評価し、選択を調整することに関わる前頭部の脳活動が低下していました。
一方で、食べ物への反応や欲求に関わる脳の領域は、より強く反応していました。

難しく聞こえるかもしれませんが、日常の感覚に置き換えると、

  • 「今はやめておこう」と考える働きが弱まりやすい
  • 「これを食べたい」という気持ちは強まりやすい

という状態です。

残業後に疲れ切って帰宅した夜、本当は軽く済ませるつもりだったのに、ラーメンや揚げ物、甘い菓子に手が伸びる。

寝不足の翌日、いつもよりこってりした昼食を選びたくなる。

その背景には、こうした脳の反応の変化が関わっている可能性があります。

また、睡眠不足が続くと、実際に食べる量が増える可能性も指摘されています。

複数の実験研究をまとめた分析では、睡眠時間を制限された人は、そうでない人に比べて、1日あたり平均385キロカロリー多く摂取していたと報告されています。
385キロカロリーは、軽い間食の上乗せとしては決して小さくありません。
毎日少しずつでも余分な摂取が重なれば、長い目で見た体重管理に影響する可能性があります。

まとめ:体重管理を考えるなら、睡眠も軽く見ない

睡眠不足では、

  • 食欲を抑えるレプチンが少なくなりやすい
  • 食欲を高めるグレリンが多くなりやすい
  • 空腹感や食欲が強まりやすい
  • 高カロリーな食品を選びやすくなる

といった変化が起こることが、複数の研究で報告されています。

もちろん、体重は睡眠だけで決まるものではありません。
食事の内容や運動量、生活全体のリズムも大きく関わります。

それでも、夜になると食べたくなることが増えた。
以前より体重管理が難しくなった。
健康診断で体重や内臓脂肪の数値が気になり始めた。

そう感じるときは、食事だけでなく、睡眠時間が削られ続けていないかも見直す必要があります。

そして、睡眠不足が体に与える影響は、食欲だけではありません。
眠りが足りない状態は、食事からとった糖を処理する働きにも影響し、血糖値の調整を乱す可能性が指摘されています。

睡眠不足と血糖値の関係、そしてインスリン抵抗性や糖尿病リスクとのつながりについては、以下の記事で詳しく解説しています。

→  たった数日の睡眠不足で血糖は乱れる?インスリン抵抗性と糖尿病リスクの関係

参考URL

  • コロンビア大学メイルマン公衆衛生大学院 疫学部門など:睡眠時間と肥満の関連を調べた大規模調査
    Inadequate Sleep as a Risk Factor for Obesity: Analyses of the NHANES I
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16295214/
  • スタンフォード大学、ハワード・ヒューズ医学研究所など:短い睡眠時間とレプチン・グレリンの変化に関する研究
    Short Sleep Duration Is Associated with Reduced Leptin, Elevated Ghrelin, and Increased Body Mass Index
    https://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.0010062
  • シカゴ大学医学部など:睡眠制限によるレプチン・グレリン、空腹感、食欲の変化に関する研究
    Sleep Curtailment in Healthy Young Men Is Associated with Decreased Leptin Levels, Elevated Ghrelin Levels, and Increased Hunger and Appetite
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15583226/
  • 学術誌『Nature Communications』:睡眠不足が高カロリー食品への欲求に与える影響を調べた脳画像研究
    The Impact of Sleep Deprivation on Food Desire in the Human Brain
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3763921/
  • キングス・カレッジ・ロンドンなど:睡眠制限と摂取カロリー増加に関する研究分析
    The Effects of Partial Sleep Deprivation on Energy Balance: A Systematic Review and Meta-Analysis
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27804960/
  • カリフォルニア大学バークレー校:睡眠不足が高カロリー食品への欲求に与える影響
    Sleep deprivation linked to junk food cravings
    https://news.berkeley.edu/2013/08/06/poor-sleep-junk-food/

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