脳は、眠っている間に脳内のゴミを処理している
私たちの脳は、起きている間ずっと働いています。
ものを考える、会話する、仕事をする、記憶する。こうした活動を支えるために、脳は多くのエネルギーを使っています。
車がガソリンを使って走ると排気ガスが出るように、脳もエネルギーを使うと、処理が必要なものを生み出します。
つまり、脳が活動すると、脳内にゴミのようなものが生じるのです。
脳には、このゴミを処理する仕組みがあります。
この処理と深く関係しているのが、睡眠です。
睡眠不足が続くと、ゴミを処理する時間が足りず、本来なら処理されるはずのゴミが、脳内に残ってしまいます。
アミロイドβ(ベータ)は、脳の活動で生じるゴミの一つ
アルツハイマー病との関係でよく名前が出る物質が、アミロイドβ(ベータ)です。
アミロイドβは、脳が活動する中で生じるタンパク質の一つです。
車が走ると排気ガスやすすが出るように、脳もエネルギーを使って働く中で、処理すべきものを生み出します。
アミロイドβも、その一つです。
つまり、アミロイドβは脳内で生じるゴミの一つです。
大切なのは、このゴミを脳内に残さず処理することです。
処理されれば、脳内にたまり続けることはありません。
しかし、睡眠不足などで処理が追いつかないと、アミロイドβは脳内に残ります。
残ったアミロイドβは少しずつ集まり、脳内にたまっていきます。
アルツハイマー病の脳では、このアミロイドβの蓄積が見られることが知られています。
睡眠中に、脳内のゴミ処理は進みやすくなる
脳には、脳脊髄液という透明な液体があります。
脳脊髄液は、脳や脊髄のまわりを満たしている液体です。
2013年、米国ロチェスター大学のメイケン・ネーデルガード氏らの研究チームは、睡眠中の脳では脳脊髄液の流れが変わり、アミロイドβなどが処理されやすくなることを報告しました。
この脳内のゴミ処理に関わる仕組みは、グリンパティック系と呼ばれます。
一晩眠らないだけでも、アミロイドβは増えた
睡眠不足とアミロイドβの関係を調べた研究があります。
2018年、米国国立衛生研究所(NIH)などの研究チームは、健康な成人20人を対象に、一晩眠らなかったときの脳内のアミロイドβを調べました。
この研究では、脳の中にある物質の量や分布を画像で調べるPET検査が使われました。
十分に眠った後の脳と、一晩眠らなかった後の脳を比べたところ、一晩眠らなかった後には、脳の一部でアミロイドβが増えていました。
増加が見られたのは、記憶に関わる海馬や、脳の情報処理に関わる視床などの領域です。
この結果は、睡眠不足によってアミロイドβの処理が乱れ、脳内に残る量が増える可能性を示しています。
睡眠は、アミロイドβを脳内にためないためにも重要な時間なのです。
睡眠不足とアミロイドβは、悪循環を作る可能性がある
睡眠不足とアミロイドβの関係は、一方通行ではありません。
睡眠が足りないと、アミロイドβの処理が進みにくくなります。
そして、アミロイドβが脳内にたまること自体も、睡眠の質と関係することが報告されています。
2013年、米国ジョンズ・ホプキンス大学などの研究チームは、地域で暮らす高齢者を対象に、睡眠時間や睡眠の質と、脳内のアミロイドβの蓄積との関係を調べました。
この研究では、参加者に普段の睡眠時間や睡眠の質を答えてもらい、脳の画像検査でアミロイドβの蓄積を確認しています。
その結果、睡眠時間が短い人や、睡眠の質が低い人では、脳内のアミロイドβの蓄積が多い傾向が報告されました。
さらに、2015年には、カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)のブライス・マンダー氏やマシュー・ウォーカー氏らが、高齢者を対象に、アミロイドβの蓄積と深いノンレム睡眠、記憶との関係を調べています。
この研究では、アミロイドβの蓄積が多い人ほど、深いノンレム睡眠に関わる脳波が弱く、睡眠後の記憶の成績にも影響が見られたことが報告されました。
つまり、睡眠不足によってアミロイドβが脳内に残り、その蓄積が深い睡眠を乱す可能性がある。
深い睡眠が乱れれば、脳内のゴミ処理も進みにくくなる。
ここに、睡眠不足とアルツハイマー病の関係を考えるうえで重要な悪循環があります。
睡眠の問題は、アルツハイマー病のリスクとも関係している
睡眠とアルツハイマー病の関係についても、長期的な研究が行われています。
2015年、米国コロンビア大学のタウブ研究所に所属するアゲリキ・ツァパノウ氏らは、65歳以上の高齢者1,041人を対象に、睡眠の問題と認知症の発症リスクとの関係を調べました。
この研究では、調査開始時点で認知症ではなかった人を追跡し、日中の眠気や「睡眠が足りていない」という感覚が、その後の認知症発症と関係するかを分析しています。
その結果、日中の眠気や睡眠不足感は、その後の認知症発症リスクと関係していることが報告されました。
ここでいう認知症にはアルツハイマー病だけでなく、ほかのタイプの認知症も含まれます。ただ、今回の記事では、アミロイドβとの関係から、主にアルツハイマー病の文脈で見ています。
睡眠不足とアルツハイマー病の関係を考えるとき、アミロイドβだけを見ればよいわけではありません。
しかし、脳内のゴミ処理、アミロイドβの蓄積、深い睡眠の低下がつながってくると、睡眠不足は脳の健康を考えるうえで無視できない問題になります。
まとめ:睡眠不足は、脳内のゴミ処理とも関係している
アミロイドβ(ベータ)は、脳の活動にともなって生じるゴミの一つです。
大切なのは、そのゴミを脳内に残さず処理することです。
睡眠中には、脳脊髄液の流れが変わり、脳内のゴミ処理が進みやすくなることが研究で報告されています。この仕組みは、グリンパティック系と呼ばれます。
2018年、米国国立衛生研究所(NIH)などの研究チームは、一晩眠らなかった後に、脳の一部でアミロイドβが増えていたことを報告しました。
また、睡眠時間の短さや睡眠の質の低下は、アミロイドβの蓄積とも関係していることが示されています。
さらに、アミロイドβの蓄積は、深いノンレム睡眠の乱れとも関係します。
つまり、睡眠不足によってアミロイドβが脳内に残り、その蓄積が深い睡眠を乱す可能性がある。
深い睡眠が乱れれば、脳内のゴミ処理も進みにくくなる。
ここに、睡眠不足とアルツハイマー病の関係を考えるうえで重要な悪循環があります。
睡眠不足の影響は、脳内のゴミ処理だけにとどまりません。細胞レベルの老化とも関係することが研究されています。
睡眠不足と老化の関係については、こちらの記事で詳しく見ていきます。
→ 睡眠不足は老化と関係する?細胞レベルで見た睡眠と体の変化
参考URL
- 米国国立衛生研究所(NIH):一晩の睡眠剥奪と脳内アミロイドβの増加を紹介した資料
Lack of sleep may be linked to risk factor for Alzheimer’s disease
https://www.nih.gov/news-events/lack-sleep-may-be-linked-risk-factor-alzheimers-disease - 学術誌『Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』:一晩の睡眠剥奪後に脳内アミロイドβ負荷を調べた研究
β-Amyloid accumulation in the human brain after one night of sleep deprivation
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1721694115 - 学術誌『Science』:睡眠中に脳脊髄液の流れが変わり、アミロイドβなどの処理が進みやすくなることを調べた研究
Sleep drives metabolite clearance from the adult brain
https://www.science.org/doi/10.1126/science.1241224 - 学術誌『JAMA Neurology』:睡眠時間・睡眠の質と脳内アミロイドβ蓄積との関係を調べた研究
Self-reported Sleep and β-Amyloid Deposition in Community-Dwelling Older Adults
https://jamanetwork.com/journals/jamaneurology/fullarticle/1788611 - 学術誌『Nature Neuroscience』:カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)のブライス・マンダー氏、マシュー・ウォーカー氏らによる、アミロイドβの蓄積と深いノンレム睡眠、記憶との関係を調べた研究
β-amyloid disrupts human NREM slow waves and related hippocampus-dependent memory consolidation
https://www.nature.com/articles/nn.4035 - 米国国立医学図書館(NLM):コロンビア大学タウブ研究所のアゲリキ・ツァパノウ氏らによる、日中の眠気・睡眠不足感と認知症発症リスクとの関係を調べた研究
Daytime Sleepiness and Sleep Inadequacy as Risk Factors for Dementia
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4521063/
