不眠とうつはなぜ悪循環になる?研究からわかる双方向の関係

目次

眠れないことと「不眠症」は同じではない

夜、なかなか寝つけなかったり、途中で何度も目が覚めたりすることは、誰にでもあります。

仕事が忙しかったり、強いストレスがあったり、旅行で生活時間が変わったりすれば、一時的に眠れなくなることもあります。

一方、慢性不眠症では、

・寝つくまでに時間がかかる
・夜中に何度も目が覚める
・予定より早く目が覚める

といった問題が繰り返し起こり、それによって日中の生活にも支障が出ます。

一つの目安になるのが、週3回以上の睡眠の問題が3か月以上続いていることです。

同じように、「気分が落ち込むこと」と「うつ病」も同じではありません。

嫌なことがあったあとに気分が沈むことは、誰にでもあります。

うつ病では、強い気分の落ち込みや、以前なら楽しめていたことを楽しめなくなる状態などが続き、仕事や学校、家事など日常生活にも大きな影響が出ます。

ですから、

「眠れない日があるから、うつ病になる」

という単純な話ではありません。

ただし、不眠が長く続いている人では、その後うつ病になるリスクが高いことが、大規模な研究で報告されています。

不眠がある人は、その後うつ病になりやすい

では、慢性的な不眠とうつ病には、実際にどのような関係があるのでしょうか。

この点を調べる方法の一つが、「前向きコホート研究」です。

前向きコホート研究とは、ある時点で人をいくつかのグループに分け、その後どうなったかを時間をかけて追跡する研究です。

たとえば、最初に「不眠がある人」と「不眠がない人」に分け、その後数年間追跡して、どちらのグループでうつ病を発症した人が多かったかを比べます。

2016年、中国・華中科技大学同済医学院公衆衛生学院の李麗青(リー・リーチン)氏らは、不眠とその後のうつ病発症を調べた前向きコホート研究を34件集め、その結果をまとめて分析しました。

この34件の研究に参加していた人数は、合計17万2,077人です。

このように、同じテーマについて行われた複数の研究を集め、その結果をまとめて分析する方法を「メタ解析」といいます。

34件の研究の追跡期間は、最短3.5か月から最長408か月までと幅があり、平均すると60.4か月、約5年間でした。

その結果、不眠がある人では、不眠がない人と比べ、その後にうつ病を発症するリスクが2.27倍でした。

ただし、ぴったり2.27倍と考えるわけではありません。

研究結果にはある程度の誤差があるため、実際のリスクの大きさには幅があります。この研究では、およそ1.9倍から2.7倍の範囲と推定されました。

つまり、不眠がある人では、その後にうつ病を発症するリスクがかなり高かったということです。

ただし、この研究で「不眠がうつ病を直接引き起こした」と証明されたわけではありません。

34件の研究の結果にもかなり大きなばらつきがありました。

不眠がある人には、強いストレスや身体の病気など、うつ病にも関係する別の要因があった可能性もあります。

この研究から分かるのは、不眠がある人では、その後うつ病になるリスクが高かったというところまでです。

2012年のHUNT研究では、不眠からうつ、うつから不眠の両方がみられた

では、反対に、うつ病がある人は、その後に不眠になりやすいのでしょうか。

ノルウェーでは、「HUNT(ハント)」と呼ばれる大規模な住民健康調査が長年続けられています。

HUNTは一度だけ行われた調査ではなく、何年かおきに繰り返し実施されています。

今回紹介する研究では、1995〜1997年に行われた「HUNT2」と、2006〜2008年に行われた「HUNT3」のデータが使われました。

つまり、HUNT2の時点を出発点として、約11年後のHUNT3でどうなっていたかを比べた研究です。

ノルウェー国立公衆衛生研究所のボルゲ・シヴェルツェン氏らは、HUNT2とHUNT3の両方に参加した2万4,715人のデータを使い、不眠とうつ病の関係を調べ、その結果を2012年に発表しました。

まず、「不眠がある人は、その後うつ病になりやすいのか」を調べました。

この分析では、HUNT2の時点で、

「不眠あり・うつ病なし」

の人と、

「不眠なし・うつ病なし」

の人を比べます。

そして約11年後のHUNT3で、それぞれのグループにうつ病がみられるようになったかを確認しました。

その結果、HUNT2とHUNT3の両方の時点で不眠がみられた人では、不眠がみられなかった人と比べて、HUNT3の時点でうつ病がみられる可能性が約6.2倍高くなっていました。

ただし、これは「11年間ずっと不眠が続いていた」という意味ではありません。

HUNT2の時点でも、約11年後のHUNT3の時点でも不眠が確認された、という意味です。途中の期間に不眠が改善していたかどうかまでは分かりません。

次に、反対方向の「うつ病がある人は、その後不眠になりやすいのか」も調べました。

今度はHUNT2の時点で、

「うつ病あり・不眠なし」

の人と、

「うつ病なし・不眠なし」

の人を比べます。

そして約11年後のHUNT3で、それぞれのグループに新しく不眠がみられるようになったかを確認しました。

その結果、HUNT2とHUNT3の両方の時点でうつ病がみられた人では、うつ病がみられなかった人と比べて、HUNT3の時点で不眠がみられる可能性が約6.7倍高くなっていました。

ここも同じで、「約11年間ずっとうつ病だった」とまでは言えません。

HUNT2とHUNT3という2つの調査時点で、うつ病が確認されたという意味です。

つまり、この研究では、

不眠がある
↓
その後、うつ病がみられやすい

だけではなく、

うつ病がある
↓
その後、不眠がみられやすい

という、両方向の関係が確認されました。

ただし、この研究は人の状態を長期間追った観察研究です。

そのため、不眠がうつ病を直接引き起こした、あるいは、うつ病が不眠を直接引き起こしたと断定することはできません。

それでも、「不眠はうつ病の結果として起こるだけ」という一方向の見方では説明しきれないことが分かります。

不眠が続くと、なぜ気分も落ち込みやすくなるのか

不眠とうつが関係していることは分かりました。

では、なぜこの二つが結びつくのでしょうか。

まず考えられるのが、眠れないことで起こる日中の変化です。

睡眠が十分に取れていないと、

朝から体が重い。

頭がすっきりしない。

集中が続かない。

普段ならしないようなミスが増える。

仕事や家事に取りかかるのがつらい。

といったことが起こります。

こうした状態が続くと、

「今日は外に出るのをやめよう」

「人に会うのが面倒だ」

「何もしたくない」

と感じる日が増えることがあります。

すると、外出や運動、人との交流、趣味なども減っていきます。

生活の中で「楽しい」と感じる時間や、何かをやり終えたという達成感も少なくなります。

こうした日中の変化が、気分の落ち込みと重なっていくことがあります。

もちろん、

「眠れないから必ずうつになる」

ということではありません。

不眠によって生活そのものが変わり、その変化が気分にも影響する場合があるということです。

不眠とうつはこうして悪循環になる

たとえば、仕事のストレスをきっかけに眠れない日が増えたとします。

睡眠が足りないため、翌日は疲れています。

集中できず、仕事もうまく進みません。

帰宅しても何かをする気になれず、外出や人との交流も減ります。

こうした日が続けば、気分も沈みやすくなります。

夜になると、

「今日も何もできなかった」

「明日の仕事もうまくいかないかもしれない」

と考え始めます。

そして、また眠れなくなる。

つまり、

眠れない
↓
日中につらくなる
↓
活動が減る
↓
気分が沈む
↓
夜に考え込む
↓
さらに眠れない

という循環ができることがあります。

もちろん、すべての人がこの順番をたどるわけではありません。

最初に気分の落ち込みがあり、そのあと不眠が始まる場合もあります。

仕事、人間関係、身体の病気など、別の原因が不眠とうつの両方に関係している場合もあります。

重要なのは、不眠とうつを完全に別々の問題として考えないことです。

不眠は「うつ病の症状だから仕方がない」ではない

以前は、不眠はうつ病などに伴って起こる症状として扱われることがありました。

つまり、

「うつ病がよくなれば、不眠も自然によくなる」

という考え方です。

しかし現在では、慢性的な不眠がある場合には、不眠そのものにも治療を行うことが重要だと考えられています。

代表的な治療法が、「不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)」です。

CBT-Iは、一つの方法だけを行う治療ではありません。

たとえば、

眠れないまま布団の中で長時間過ごさない。

布団と「眠れない場所」という結びつきを弱める。

布団で過ごす時間を調整する。

睡眠についての考え方を見直す。

といった方法を組み合わせます。

2021年、米国睡眠医学会(AASM)は、成人の慢性不眠症に対する行動療法・心理療法について臨床ガイドラインを発表しました。

多数の研究を検討した結果、複数の方法を組み合わせたCBT-Iについては、「多くの場合に行うべき治療」として強く推奨しています。

さらに興味深いのは、「寝室を快適にする」「カフェインを控える」「生活時間を整える」といった睡眠衛生だけを、慢性不眠症の治療として行うことは推奨していない点です。

睡眠衛生が無意味ということではありません。

CBT-Iの一部として使われることはあります。

しかし、慢性不眠症に対して「生活習慣に気をつけましょう」と伝えるだけでは、十分な治療とはいえないということです。

不眠を治療すると、うつ病の症状も改善するのか

では、不眠そのものを治療すると、うつ病の症状にも変化が出るのでしょうか。

2024年、東京大学神経精神医学部門の古川祐樹氏らの研究チームは、うつ病と不眠の両方がある成人を対象に、「不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)」の効果を調べた研究を集め、その結果をまとめて分析しました。

対象となったのは19件の研究で、参加者は合計4,808人です。

参加者の平均年齢は33.2歳で、約73%が女性でした。

これらの研究では、うつ病に対する通常の治療などにCBT-Iを加えた場合と、CBT-Iを加えなかった場合で、その後のうつ症状や不眠の改善にどのくらい違いが出るかを比べました。

治療後の評価は、中央値で約8週間後に行われています。

その結果、うつ病の症状が一定以上改善した人は、CBT-Iを加えなかった場合では17%でした。

これに対して、CBT-Iを加えた場合では32%でした。

つまり、症状が一定以上改善した人は、通常の治療などだけの場合ではおよそ6人に1人だったのに対し、CBT-Iを加えた場合では約3人に1人まで増えたことになります。

不眠そのものについても、CBT-Iを加えた場合の方が改善しやすいという結果でした。

ただし、

「不眠を治療すれば、うつ病も治る」

という意味ではありません。

この研究から分かるのは、うつ病と不眠の両方がある人では、通常の治療などにCBT-Iを加えることで、睡眠だけでなく、うつ病の症状にも改善がみられる可能性があるということです。

不眠とうつ病が重なっている場合は、うつ病だけを見るのではなく、不眠にも治療の対象として目を向けることが重要だと考えられます。

まとめ:不眠とうつは、どちらか一方だけで考えない

不眠があるからといって、必ずうつ病になるわけではありません。

一時的に眠れないことと、慢性的な不眠症は違います。

一時的な気分の落ち込みと、うつ病も違います。

それでも、17万2,077人を含む34研究をまとめた分析では、不眠がある人は、その後うつ病になるリスクが2.27倍でした。

ノルウェーのHUNT研究では、不眠からうつ病だけでなく、うつ病から不眠という反対方向の関係も確認されています。

さらに、2024年の4,808人を対象とした分析では、うつ病と不眠の両方がある人にCBT-Iを加えることで、不眠だけでなく、うつ病の症状にも改善がみられました。

つまり、不眠とうつは、どちらか一方だけを見ればよい問題ではありません。

「うつ病があるから、不眠は仕方がない」と考える必要もありません。

不眠とうつが重なっている場合は、両方に目を向けることが大切です。

では、慢性的な不眠には、実際にどのような治療が行われるのでしょうか。

代表的な治療のひとつが、不眠症の認知行動療法(CBT-I)です。

不眠症の認知行動療法(CBT-I)では、眠れないまま寝床で過ごす時間や、睡眠に対する不安や思い込みなど、不眠を長引かせている行動や考え方を改善していきます。

→ 不眠症の認知行動療法(CBT-I)とは?実際に何をする?効果と治療法を解説

参考URL

  • 中国・華中科技大学同済医学院公衆衛生学院:34件の前向きコホート研究、合計17万2,077人を対象に、不眠がある人とない人で、その後のうつ病発症リスクを比較したメタ解析
    Insomnia and the Risk of Depression: A Meta-analysis of Prospective Cohort Studies
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27816065/
  • ノルウェー・国立公衆衛生研究所:HUNT2とHUNT3の両方に参加した2万4,715人を約11年間追跡し、不眠からうつ病、うつ病から不眠という双方向の関係を調べた研究
    The Bidirectional Association Between Depression and Insomnia: The HUNT Study
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22879427/
  • 米国睡眠医学会:慢性不眠症に対する認知行動療法や、刺激制御療法などについてまとめた臨床ガイドライン
    Behavioral and Psychological Treatments for Chronic Insomnia Disorder in Adults: An American Academy of Sleep Medicine Clinical Practice Guideline
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7853203/
  • 東京大学:うつ病と不眠を併せ持つ成人4,808人を含む19件の無作為化比較試験をまとめ、CBT-Iが抑うつ症状と不眠に与える効果を調べた研究
    Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia to Treat Major Depressive Disorder with Comorbid Insomnia: A Systematic Review and Meta-analysis
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39242039/
  • URLをコピーしました!
目次