7時間?8時間?科学と遺伝子が導き出した「最適な睡眠時間」の結論

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結局何時間眠ればいいの?

「健康のためには毎日8時間寝るべきだ」
「いや、最新の研究では7時間がベストらしいぞ」

テレビやネット、そして書店に並ぶ健康本を開けば、理想の睡眠時間についてさまざまな「正解」が語られています。しかし、情報が多すぎて、結局自分は何時間眠ればいいのか分からなくなってしまった「睡眠迷子」の方も多いのではないでしょうか。

結論から申し上げましょう。現在の研究から見えている結論は、「万人に共通する最強の睡眠時間は存在せず、最適な時間には大きな個人差があり、その差には遺伝子も関係している」という身も蓋もない事実です。

ただし、これは「何時間でもよい」という意味ではありません。
米国疾病予防対策センター(CDC)は、18〜60歳の大人に7時間以上の睡眠を勧めています。また、米国国立心肺血液研究所(NHLBI)は、大人の目安として7〜9時間を示しています。

しかし巷で言われる「7時間」や「8時間」という数字には、それぞれ異なる視点からのしっかりとした科学的エビデンスがあります。今回は、両者の根拠を比較し、なぜこのような違いが生まれるのか、そして私たちがどう睡眠時間に向き合うべきかを見ていきます。

「7時間睡眠」の根拠:数十万人規模のデータが示す「死亡率」の底

まずは「7時間がベスト」とされる科学的根拠を見ていきましょう。この数字は、主に統計学と疫学のアプローチから導き出されたものです。疫学とは、病気の原因や健康との関係を集団から調べる学問です。

アメリカで行われた100万人以上を対象とした大規模な追跡調査や、日本国内で行われた約10万人を対象としたJACC Studyにおいて、人々の毎日の睡眠時間と死亡率の関係が調査されました。JACC Studyとは、がんや循環器病などのリスクを長期にわたって調べた日本の大規模追跡調査です。

JACC Studyの代表的な論文としてよく引用されるのが、2004年に発表されたSelf-Reported Sleep Duration as a Predictor of All-Cause Mortality: Results from the JACC Study, Japan
です。この研究は、1988年から1990年に登録された日本人10万4,010人を平均9.9年間追跡したものです。

その結果、睡眠時間が7時間前後の人で死亡率がもっとも低いという傾向が示されました。JACC Studyの2004年論文でも、7時間より短くても長くても、全死亡リスクの上昇と関連したと報告されています。

睡眠時間と死亡率の関係(JACC Studyベース、7時間=1.00)

睡眠時間と死亡率の関係グラフ

出典:Tamakoshi A, Ohno Y, JACC Study Group. Self-Reported Sleep Duration as a Predictor of All-Cause Mortality: Results from the JACC Study, Japan. Sleep. 2004;27(1):51–54.
※このグラフは、がんや循環器病などのリスクを長期にわたって調べた日本の大規模追跡調査(JACC Study)の数値をもとに作成しています。論文情報はJACC Studyの該当論文に基づいています。

このグラフでは、7時間睡眠の人を基準(死亡率1.00)とした場合、4時間以下では男性1.62倍、女性1.60倍、10時間以上では男性1.73倍、女性1.92倍となっています。つまり、短すぎても長すぎても、7時間から離れるほど死亡率が高くなる傾向が見られるのです。こうした客観的な大規模統計データこそが、「7時間睡眠が有力な目安」とされる大きな理由です。

しかし、ここで絶対に忘れてはならない重要な注意点があります。それは、「7時間というのは、何十万人ものデータを平均化した統計上の数値にすぎない」ということです。

日本人男性の靴の平均サイズが26センチだからといって、足のサイズが28センチの人が無理やり26センチの靴を履けば足を痛めてしまいます。平均値である「7時間」を万人の絶対的な正解と見なし、無理に自分をその枠に当てはめようとすることは、かえって心身の健康を害する危険な行為なのです。

「8時間睡眠」の根拠:日中の「フルパフォーマンス」と「病気予防」の限界点

一方で、世界的なベストセラー『睡眠こそ最強の解決策である』の著者マシュー・ウォーカー氏をはじめ、「8時間、あるいは7時間より長く眠ったほうがよい」と考える専門家も多数存在します。彼らの根拠は、単なる統計上の寿命ではなく、「脳と身体が最高のパフォーマンスを発揮し、病気のリスクを未然に防ぐために必要な時間」という、より高い基準に基づいています。

1. 免疫力の維持とがんリスク

睡眠時間が短くなると、私たちの身体を守る免疫システムは弱まりやすくなります。米国疾病予防対策センター(CDC)も、十分な睡眠が心身の健康に重要であり、睡眠不足がさまざまな健康問題と関わると説明しています。研究によっては、睡眠時間が短い状態が長く続くことで、がんの発症リスクが上がるという報告もあります。

2. 脳の認知機能と認知症リスク

認知力を正常に維持するには、1日に7時間より長い睡眠が必要だとする考え方があります。また、アルツハイマー病の原因物質のひとつとされる「アミロイドβ」という脳内の老廃物は、睡眠中、とくに深い睡眠の間に、脳内の老廃物の排出が進むと考えられています。睡眠時間が不足するとこのクリーニング作業が追いつかず、老廃物が蓄積しやすくなる可能性があります。睡眠が不十分な状態は、認知症の発症リスクが上がるという報告もあります。

つまり、「統計上の長寿の平均値」を見れば7時間ですが、「日中の集中力や記憶力をなるべく落とさず、病気のリスクもできるだけ抑える」という高い基準を設定した場合、私たちの身体は8時間程度、つまり7時間を少し超える睡眠を必要とする人が少なくないのです。米国国立心肺血液研究所(NHLBI)も、大人は7〜9時間が目安だとしています。

必要な睡眠時間は「遺伝子」で生まれつき決まっている部分がある

「統計で導き出された7時間」と「フル稼働のための8時間」。どちらも科学的な事実ですが、最終的に私たちが受け入れるべき真理は、「本当に必要な睡眠時間は、気合や努力だけではなく、遺伝子によって生まれつき大きく左右される」ということです。

歴史を振り返ると、フランスの皇帝ナポレオンは1日わずか3時間しか眠らなかったと言われ、物理学者のアインシュタインは毎日10時間眠っていたことで有名です。研究では、DEC2やADRB1のような遺伝子の変化を持つ人が、極端に短い睡眠時間でも心身の機能を保ちやすい、いわゆる自然なショートスリーパーである可能性が報告されています。

しかし、このような体質を持つ人はごくまれです。つまり、世の中の大半の人は、7〜8時間前後の睡眠を必要とするごく普通のタイプなのです。

「気合」や「訓練」で睡眠時間を削ってショートスリーパーになれると考えるのは安全ではありません。無理に短時間睡眠を続ければ、見えないところで睡眠不足が積み重なり、日中のパフォーマンスを大きく低下させることになります。米国疾病予防対策センター(CDC)も、睡眠不足は注意力や記憶、気分、事故のリスクに影響すると説明しています。

年齢による変化も無視できない

さらに、自分にとって最適な睡眠時間は一生同じではなく、年齢とともにも変化していきます。

10代の成長期には、脳と身体の発達のために長い睡眠が必要ですが、加齢に伴い睡眠のパターンは変化していきます。米国疾病予防対策センター(CDC)でも、必要な睡眠時間は年齢によって変わると示されています。高齢になると「朝早く目が覚めてしまう」「長く眠り続けられない」と感じる人が増えますが、必要な睡眠そのものが不要になるわけではありません。

まとめ:数字の呪縛から逃れ、「自分の正解」を見つけよう

「7時間」は、何十万人ものデータから導き出された長寿のための統計上の平均値です。
「8時間」は、脳と身体のパフォーマンスを最大化し、病気を防ぐために必要だと考えられている生理学的な時間です。

どちらも科学的な根拠に基づいた考え方ですが、もっとも重要なのは、あなたが平均データ上の架空の人間ではなく、独自の体質を持った一人の生身の人間であるということです。

「絶対に7時間ぴったりで起きなければ」
「必ず8時間はベッドにいなければ」

そんなふうに数字に縛られすぎる必要はありません。

平均値はあくまで一つの目安として参考にしながら、最終的には、日中に強い眠気を感じず、自分がもっとも安定して過ごせるのは何時間かを基準にすること。

それこそが、あなた自身の体質が教えてくれる「最適な睡眠時間」の答えです。

実際に自分に合う睡眠時間を見つける方法については、こちらの記事で詳しく見ていきます。

→  脱・睡眠迷子!科学的に「自分に合う睡眠時間」を見つける3つの方法

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