眠りの質が、翌日の頭と身体を左右する
レム睡眠、ノンレム睡眠という言葉をご存じの方も多いでしょう。
睡眠に関する書籍や記事でも、よく見かける言葉です。
では実際に、レム睡眠とノンレム睡眠とは何なのでしょうか。
名前は知っていても、「何が違うのか」「それぞれ、眠っている間に何をしているのか」まで説明するのは、意外と難しいかもしれません。
私たちの睡眠は、ただ長く眠ればよいというものではありません。
眠っているあいだ、脳と身体の中では、起きている時間には進めにくい大切な作業が行われています。
ハーバード大学睡眠医学部門も、睡眠は単なる休止状態ではなく、その日の出来事を処理し、エネルギーを回復させる活動的な過程だと説明しています。
その中心になるのが、レム睡眠とノンレム睡眠です。
少し難しく見える言葉ですが、大まかな違いはそこまで複雑ではありません。
ノンレム睡眠は、脳と身体が比較的しっかり休む眠り。
レム睡眠は、身体は休んでいる一方で、脳はかなり活発に働いている眠りです。
この2つの眠りは、どちらか一方だけが大切なのではありません。
一晩の中で交互に現れ、それぞれ異なる役割を担うことで、私たちの翌日の体調や頭の働きを支えています。
ノンレム睡眠は、脳と身体を立て直す時間
ベッドに入り、眠りについたあと、最初に多く現れるのがノンレム睡眠です。
ノンレム睡眠は、英語の Non-Rapid Eye Movement sleep を略した言葉です。
直訳すると、「急速な眼球運動を伴わない睡眠」という意味になります。
ノンレム睡眠には、浅い段階から深い段階までがあります。
眠り始めは浅いノンレム睡眠ですが、そこから徐々に深くなり、やがてもっとも深い眠りへと進んでいきます。
眠りが深まるにつれて、心拍数や血圧は下がり、呼吸も落ち着きやすくなります。
身体は外からの刺激に反応しにくくなり、休息に向いた状態へ入っていきます。
日中、私たちは仕事、移動、家事、人とのやり取りなどを通じて、脳も身体も使い続けています。
ノンレム睡眠は、そうした日中の負担をいったん落ち着かせ、翌日に向けて身体を立て直す時間と考えるとわかりやすいでしょう。
特に重要なのが、深いノンレム睡眠です。
深いノンレム睡眠は、睡眠段階でいうと、もっとも深い眠りにあたります。
この時間帯には、体の修復や回復に関わる働きが進みやすくなります。
たとえば、深い睡眠と重なるように、成長ホルモンの分泌が高まりやすいことが知られています。
成長ホルモンというと、子どもの成長に関わるものという印象が強いかもしれません。
しかし大人にとっても、成長ホルモンは体の修復や代謝の調整に関わる重要なホルモンです。
日中に使った筋肉や組織を整える働きにも関係しています。
また、ノンレム睡眠は、身体を休めるだけでなく、脳の状態を整えることにも関わっています。
日中、私たちの脳には、仕事で見聞きした情報、会話の内容、判断したこと、気になった出来事などが次々と入ってきます。
睡眠中には、その情報の一部を整理し、不要なものは弱め、必要なものは残しやすくする働きが進むと考えられています。
机の上に書類が広がったままだと、翌朝どこから手をつければよいのかわかりにくくなります。
それと同じように、脳も眠っている間に情報を整理することで、翌日の思考や判断を支えやすくしているのです。
深い眠りは、脳の「片づけ」にも関わっている
深いノンレム睡眠が注目される理由は、もう一つあります。
それが、脳の老廃物の処理との関係です。
米国ロチェスター大学の研究グループは、脳の中には老廃物を外へ流しやすくする仕組みがあり、睡眠中にその働きが高まりやすいことを報告しました。
この仕組みは、グリンパティック系と呼ばれます。
難しい名前ですが、イメージとしては、日中に働いた脳の中を、眠っている間に整える排水の仕組みと考えるとわかりやすいです。
ここでよく取り上げられるのが、アミロイドβという物質です。
名前だけを見ると難しく感じますが、ひとまず脳の中にたまりうる老廃物の一つと捉えておけば十分です。
こうした脳内の老廃物の処理は、睡眠と深く関係していると考えられています。
そのため、睡眠は「休んでいるだけの時間」ではなく、脳の環境を整える時間でもあるのです。
なお、グリンパティック系と脳の老廃物処理については、こちらの記事で詳しく取り上げています。
ここでは、ノンレム睡眠が身体の回復だけでなく、脳の状態を整えることにも関わる眠りだと押さえておくとよいでしょう。
レム睡眠は、身体を休めながら脳が活発に働く時間
深いノンレム睡眠のあとに現れるのが、レム睡眠です。
レム睡眠の REM は、Rapid Eye Movement の頭文字を取った言葉です。
日本語では「急速眼球運動」と訳されます。
レム睡眠中は、眠っている人のまぶたの下で眼球がすばやく動くことがあります。
この特徴が、名前の由来です。
レム睡眠は、ノンレム睡眠とはかなり違った状態です。
手足など大きな筋肉の力は抜け、身体は動きにくい状態になります。
一方で、脳の活動は高まり、起きているときに近い脳波の特徴が見られます。
つまり、身体は休んでいるのに、脳は活発に働いているのがレム睡眠です。
私たちが比較的鮮明な夢を見るのも、主にこのレム睡眠のときだと考えられています。
では、身体が休んでいる一方で、脳が活発に働いているあいだ、何が起きているのでしょうか。
その一つとして考えられているのが、記憶の整理です。
睡眠は、記憶を一つの場所に保存する単純な作業ではありません。
日中に得た情報を整理し、過去の経験と結びつけ、必要に応じて使いやすい形へ整えていく時間でもあります。
レム睡眠は、こうした記憶の処理の一部に関わっていると考えられています。
特に、経験同士を結びつけたり、情報を柔軟に扱いやすくしたりする働きとの関連が研究されています。
仕事で得た新しい知識が、翌日になって急に腑に落ちる。
考えがまとまらなかった問題に、一晩たつと別の見方が浮かぶ。
そうした変化の背景には、睡眠中の情報整理が関わっている可能性があります。
ただし、記憶の整理や定着は、レム睡眠だけが担っているわけではありません。
ノンレム睡眠も含め、睡眠全体が記憶に関わっています。
そのため、「レム睡眠だけが記憶に必要」と考えるのではなく、異なる眠りがそれぞれの形で記憶の処理を支えていると考えるのが自然です。
レム睡眠は、感情の整理にも関わる
レム睡眠は、記憶だけでなく、感情の処理にも関わると考えられています。
日中に強いストレスを感じた。
思いどおりに仕事が進まず、気持ちが落ち着かなかった。
人とのやり取りが頭から離れなかった。
そんな日でも、一晩眠ると、翌朝には少し気持ちが整理されていることがあります。
もちろん、睡眠だけで悩みが消えるわけではありません。
それでも、睡眠、とくにレム睡眠は、感情を伴う記憶の処理と関係していると考えられています。
研究では、レム睡眠中には、感情反応と関わる脳の働きが変化し、感情を伴う記憶の整理に役立っている可能性が示されています。
睡眠が不足すると、いつもなら受け流せることに強く反応してしまう。
不安やいらだちが残りやすい。
こうした感覚の背景にも、睡眠中の感情処理が十分に進まないことが関係している可能性があります。
レム睡眠は、翌日の仕事や生活を落ち着いて進めるためにも、軽く見られない眠りなのです。
技術や手順の定着には、浅いノンレム睡眠も関わる
睡眠と記憶の関係を考えるとき、深い眠りやレム睡眠だけが注目されがちです。
しかし、比較的浅いノンレム睡眠にも大切な役割があります。
その一つとして知られているのが、睡眠紡錘波(すいみんぼうすいは)です。
睡眠紡錘波とは、主に、浅いノンレム睡眠の段階で見られる特徴的な波の一つです。
研究では、この睡眠紡錘波が、技能や手順を覚える記憶、いわゆる手続き記憶の定着と関係することが繰り返し報告されています。
たとえば、
- タイピング
- 楽器の演奏
- スポーツのフォーム
- 手順を覚える作業
のように、身体で覚える技能は、練習した直後だけでなく、眠っているあいだにも整理されていくと考えられています。
日中にうまくできなかった動きが、翌日になると少し滑らかになっている。
練習した手順が、翌朝には前日より自然に出てくる。
こうした変化には、睡眠中の脳の働きが関わっている可能性があります。
つまり、眠りの質を考えるときは、深く眠れればそれだけでよいというわけではありません。
深いノンレム睡眠、浅いノンレム睡眠、レム睡眠。
それぞれが異なる形で、体の回復や記憶の整理を支えているのです。
レム睡眠とノンレム睡眠は、一晩の中で交互に現れる
ここまで、レム睡眠とノンレム睡眠の役割を見てきました。
では、この2つの眠りは、一晩の中でどのように現れるのでしょうか。
私たちの睡眠は、ノンレム睡眠とレム睡眠のどちらか一方が朝まで続くわけではありません。
眠りにつくと、まずノンレム睡眠が現れ、その後にレム睡眠が現れます。
この流れを一つのまとまりとして、一晩に何度か繰り返します。
一般には、ノンレム睡眠とレム睡眠の周期は、およそ80〜100分前後を目安に繰り返されると説明されています。
ただし、これはあくまで目安です。
睡眠サイクルの長さには個人差があり、その日の体調や睡眠状態によっても変わります。
大切なのは、睡眠は一定の深さで朝まで続くのではなく、眠りの状態を変えながら進んでいるということです。
また、一晩の前半と後半では、眠りの構成にも違いがあります。
睡眠の前半は、深いノンレム睡眠が多く現れやすい時間帯です。
一方、明け方に近づく後半になると、深いノンレム睡眠は減り、レム睡眠の時間が長くなりやすくなります。
この仕組みを知ると、睡眠時間を削ることの問題も見えてきます。
たとえば、起きる時間は変えずに、寝る時間だけが遅くなったとします。
その場合、睡眠全体が短くなるだけでなく、明け方に増えやすいレム睡眠の時間も削られやすくなります。
「少し寝る時間が遅くなっただけ」と思っていても、翌日に頭が働きにくい、気分が落ち着かない、思った以上に疲れが残る。
そう感じる背景には、一晩の睡眠構成が崩れている可能性があります。
もちろん、睡眠の質はサイクルだけで決まるものではありません。
それでも、レム睡眠とノンレム睡眠の両方をある程度確保するには、まとまった睡眠時間そのものが必要です。
まとめ:睡眠は「量と質」の両方で考える必要がある
ノンレム睡眠とレム睡眠は、どちらも欠かせない眠りです。
ノンレム睡眠は、身体を休め、脳の状態を整え、情報の整理にも関わる眠りです。
レム睡眠は、身体を休ませながら脳が活発に働き、記憶や感情の処理に関わる眠りです。
さらに、浅いノンレム睡眠では、技能や手順の定着と関係する睡眠紡錘波も現れます。
一晩の睡眠は、こうした複数の眠りが組み合わさることで成り立っています。
だからこそ、睡眠は「長さ」だけでも、「深さ」だけでも足りません。
ある程度まとまった睡眠時間を確保し、その中でノンレム睡眠とレム睡眠の両方が繰り返されることが大切です。
朝のだるさが抜けにくい。
日中の眠気が続く。
集中力が落ちていると感じる。
そんな状態が続いているなら、睡眠時間だけでなく、眠りの中身にも目を向ける価値があります。
そして、レム睡眠とノンレム睡眠の違いを理解したら、次に知っておきたいのが、睡眠が一晩の中でどのような段階をたどって進むのかということです。
睡眠中に脳と体で何が起きているのかについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ あなたの脳と体で毎晩起きていること。科学が明かす「睡眠の4つのステージ」の基本
参考URL
- ハーバード大学睡眠医学部門:睡眠とは何か?
Science of Sleep: What is Sleep?
https://sleep.hms.harvard.edu/education-training/public-education/sleep-and-health-education-program/sleep-health-education-47 - 米国国立心肺血液研究所(NHLBI):睡眠の段階
Sleep Phases and Stages
https://www.nhlbi.nih.gov/health/sleep/stages-of-sleep - 米国国立医学図書館(NLM):睡眠ステージの生理学
Physiology, Sleep Stages
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK526132/ - 米国国立医学図書館(NLM):レム睡眠の生理学的解説
Physiology, REM Sleep
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK531454/ - 米国国立医学図書館(NLM):睡眠と感情記憶の処理に関する研究
Sleep and Emotional Memory Processing
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4182440/ - 米国国立医学図書館(NLM):レム睡眠と感情を伴う情報処理に関する研究
The Role of Sleep in Emotional Brain Function
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4286245/ - 米国国立医学図書館(NLM):睡眠紡錘波と手続き記憶の定着に関する研究
Learning-dependent changes in sleep spindles and Stage 2 sleep
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16911026/ - 米国国立医学図書館(NLM):睡眠紡錘波と運動スキルの記憶定着に関する研究
Slow sleep spindle and procedural memory consolidation in patients with major depressive disorder
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4734800/ - ロチェスター大学:なぜ睡眠はそれほど重要なのか? あなたの脳は睡眠に依存している
Why is sleep so important? Your brain depends on it
https://www.rochester.edu/newscenter/why-is-sleep-important-brain-glymphatic-system-692222/
