寝不足だと嫌なことを引きずりやすい?睡眠とネガティブな感情

目次

嫌な出来事をいつまでも引きずってしまう理由

仕事で失敗して注意された日や、家族と言い争いになった日は、その場を離れたあとも出来事を何度も思い返すことがあります。

「あの言い方は何だったのか」「なぜ自分はあんな返事をしたのか」と考えているうちに、腹立たしさや落ち込みが戻ってくる。翌日になっても気持ちが変わらず、嫌なことを引きずってしまうこともあります。

嫌なことが起きた瞬間に強く反応することと、その感情が時間がたっても残り続けることは同じではありません。睡眠は、嫌な出来事に伴う感情が、その後どのように変わるかに関係しています。

その場で腹が立つことと、あとまで引きずることは違う

その場では強く腹が立っても、時間がたつと落ち着くことがあります。反対に、その場ではそれほど気にならなかったことでも、あとから何度も思い返すうちに、怒りや落ち込みが強くなることもあります。

嫌な出来事や、それによって生じた感情について、同じことを繰り返し考え続けることは「反すう」と呼ばれます。

ただし、日常生活でいう「嫌なことを引きずる」という感覚を、実験の中でそのまま再現することはできません。

そのため、睡眠と感情を扱った研究では、不快な画像などを一度見せ、時間を置いてから同じものをもう一度見せます。そのとき、最初に見たときより感情的な反応が弱くなっているかを調べます。

人間関係で傷ついた場合とは状況が異なりますが、嫌な刺激に対する反応が時間とともにどう変わるのかを調べる方法の一つです。

一晩眠ったあとには、同じ画像への感情が弱くなった

2011年、米国カリフォルニア大学バークレー校のエルス・ファン・デル・ヘルム氏、マシュー・ウォーカー氏らは、18歳から30歳までの健康な成人34人を対象に、睡眠をはさんだ前後で感情がどのように変わるかを調べました。

参加者のうち18人は夜に検査を受け、その後一晩眠って、翌朝にもう一度検査を受けました。残りの16人は朝に検査を受け、その後は昼間を起きて過ごし、同日の夜に2回目の検査を受けました。

検査では、感情を動かす150枚の画像を見せ、それぞれの画像から受けた感情の強さを評価してもらいました。約12時間後の2回目の検査でも、同じ画像が使われました。

その結果、一晩眠った人たちは、最初に強く感情を動かされた画像に対して、翌朝には感じる強さが弱くなっていました。脳の活動を調べた結果でも、感情に関わる脳の部位である扁桃体の反応が、翌朝には弱くなっていました。

一方、昼間を起きて過ごした人たちでは、画像に対する感情の強さは弱まらず、脳の反応にも同じ変化は見られませんでした。

この研究は、一晩眠った人と徹夜した人を比較したものではありません。睡眠をはさんだ12時間と、起きたまま過ごした12時間を比べています。また、実際の人間関係で起きた出来事ではなく、画像を見たときの反応を調べた研究です。

それでも、嫌な刺激を受けてから時間がたつだけでなく、その間に眠ることが、感情の強さが弱まる過程に関係していることが示されています。

レム睡眠と感情の変化には関係が見られた

同研究では、一晩眠った18人について、睡眠中の脳波も記録されていました。

その結果、レム睡眠中の前頭部で見られるガンマ波と呼ばれる活動が低かった人ほど、翌朝に同じ画像を見たときの扁桃体の反応と、本人が感じた感情の強さが大きく低下していました。

ただし、これはレム睡眠中の脳波と翌朝の感情反応との間に関係が見られたという結果です。レム睡眠が感情を弱めたことを直接確認したわけではありません。

レム睡眠が嫌な記憶に伴う感情を弱めるという考え方は、この研究だけで確定したものではありません。

2015年、ドイツのクリスティアン・アルブレヒト大学医学部のクリスティアン・ウィースナー氏らは、健康な成人62人を対象に、レム睡眠と感情的な記憶の関係を調べました。

参加者には、80枚の中立的な画像と80枚の不快な画像を見せ、画像から受けた不快感や感情の強さを評価してもらいました。その後、レム睡眠を減らすグループ、深い睡眠を減らすグループ、起きて過ごすグループに分け、9時間後に画像の記憶と感情の評価を再び調べました。

不快な画像に対する感情の強さは時間とともに弱くなりましたが、レム睡眠をとったかどうかによる明確な違いはありませんでした。

この研究では、レム睡眠は不快な画像を記憶に残すことには関係していましたが、その画像に伴う感情を弱めるという結果は確認されませんでした。

したがって、レム睡眠を「嫌な記憶から感情だけを取り除く時間」と説明することはできません。

睡眠をはさんだあとに感情的な反応が弱まることと、レム睡眠中の脳波との間には関係が見つかっています。ただし、レム睡眠が感情にどのように関わっているのか、その具体的な仕組みはまだ研究中です。

嫌なことを考え続けると眠りにくくなる

睡眠とネガティブな感情の関係は、一方向ではありません。

睡眠をはさんだあとに感情的な反応が弱まることがある一方で、嫌な出来事を考え続けることによって、その夜に眠りにくくなることもあります。

2009年、米国カリフォルニア大学アーバイン校のペギー・ゾッコラ氏、サリー・ディッカーソン氏らは、70人を対象に、ストレスを感じる出来事を何度も考えることと、眠りにつくまでの時間との関係を調べました。

参加者には、午後の実験で評価者の前に立ち、5分間のスピーチをしてもらいました。スピーチのあとには10分間の休憩を設け、その間にスピーチについてどのくらい考えていたかを記録しました。

その夜は腕時計型の装置を装着し、眠りにつくまでの時間を測定しました。翌朝には、本人がどのくらいで眠れたと感じたかも回答しています。

その結果、普段から嫌な出来事を繰り返し考えやすく、実験後にもスピーチについて何度も考えていた人は、客観的に測った入眠までの時間が最も長くなっていました。

実験後にスピーチについて考えた回数は、本人が翌朝に回答した入眠時間の長さとも関係していました。一方、睡眠時間や、眠ったあとに途中で目覚めていた時間との関係は確認されませんでした。

この研究が示しているのは、寝不足だから嫌なことを何度も考えるという方向ではありません。嫌な出来事を繰り返し考えることによって、眠りにつくのが遅くなるという関係です。

嫌な気持ちが残っているために考え続け、その結果として眠りにくくなる。睡眠が遅れれば、感情を落ち着かせるための時間も短くなります。

こうして、嫌なことを引きずることと眠れないことが、互いに続きやすくなります。

嫌なことがあった夜に、すべてを決めなくてもよい

仕事や人間関係で嫌なことがあると、何が悪かったのか、相手はなぜあのようなことを言ったのかと、夜になっても考え続けることがあります。

しかし、同じことを長く考えれば、必ず答えが出るわけではありません。考え続けることによって、かえって眠りにつくのが遅くなることもあります。

睡眠をとっても、起きた問題そのものが解決するわけではありません。相手の言葉がなかったことになるわけでも、自分の失敗が消えるわけでもありません。

ただ、睡眠をはさんだあとには、同じ出来事に対する感情の強さが変わることがあります。夜には許せないと思っていたことでも、翌朝になると少し違う見方ができることがあります。

その日のうちに返事や結論を出す必要がないなら、夜の感情だけで判断を確定させず、いったん眠ってからもう一度考える。

嫌な気持ちを無理に消そうとするのではなく、考え続けるのをいったん中断することも、選択肢の一つです。

まとめ

嫌なことが起きた直後に強く反応することと、その出来事を何度も思い返し、怒りや落ち込みを長く引きずることは同じではありません。

睡眠をはさんだ前後で同じ画像を見せた研究では、一晩眠った人は、翌朝に同じ画像から受ける感情の強さが弱くなっていました。感情に関わる脳の部位である扁桃体の反応も低下していました。一方、同じ時間を昼間に起きて過ごした人では、同じ変化は見られませんでした。

この変化とレム睡眠中の脳波との間にも関係が見つかっています。ただし、別の研究では、レム睡眠を減らしても感情の評価に明確な違いは確認されませんでした。レム睡眠が感情にどのように関わっているのか、その具体的な仕組みは現在も研究中です。

また、嫌な出来事を何度も思い返す「反すう」が強いと、その夜は眠りにつくまでに時間がかかることも報告されています。嫌な気持ちが残っているために考え続け、そのために眠れなくなるという流れも起こります。

睡眠をとっても、起きた出来事や問題そのものがなくなるわけではありません。ただ、同じ出来事に向き合ったときの感情の強さは、眠ったあとには変わっていることがあります。

その日のうちに結論を出す必要がないことなら、夜に考え続けるのをいったんやめ、眠ってからもう一度考える。嫌な気持ちを翌日まで引きずらないためには、そのような区切り方もあります。

参考URL

  • カリフォルニア大学バークレー校:睡眠前後における同一の感情刺激に対する扁桃体反応と感情評価の変化に関する研究
    REM Sleep Depotentiates Amygdala Activity to Previous Emotional Experiences
    https://walkerlab.berkeley.edu/reprints/vanderHelm-Walker_CB_2011.pdf
  • クリスティアン・アルブレヒト大学キール校:レム睡眠の減少が感情的記憶と感情評価に与える影響に関する2015年の研究
    The effect of selective REM-sleep deprivation on the consolidation and affective evaluation of emotional memories
    https://www.klinische.psychologie.uni-kiel.de/de/das-team/dr-dipl-psych-christian-wiesner/publikationen-1
  • 学術誌『Current Biology』:睡眠をはさんだ前後で、同じ感情刺激に対する脳と本人の反応を比較した研究
    REM Sleep Depotentiates Amygdala Activity to Previous Emotional Experiences
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22119526/
  • 学術誌『Neurobiology of Learning and Memory』:レム睡眠を減らした場合の感情的な記憶と感情評価への影響を調べた研究
    The Effect of Selective REM-Sleep Deprivation on the Consolidation and Affective Evaluation of Emotional Memories
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25708092/
  • 学術誌『Psychosomatic Medicine』:嫌な出来事を繰り返し考えることと、眠りにつくまでの時間との関係を調べた研究
    Rumination Predicts Longer Sleep Onset Latency After an Acute Psychosocial Stressor
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19622710/
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