ショートスリーパーの真実|本当に短時間睡眠で大丈夫?遺伝との関係

目次

「短眠」への憧れと危険な誤解

「1日3〜4時間の睡眠でもスッキリ目覚め、日中もエネルギッシュに活動できる」

そんな「ショートスリーパー」に憧れたことはありませんか。

現代社会はとても忙しく、仕事、家の用事、趣味、勉強、スキルアップなど、やりたいことも、やらなければならないこともたくさんあります。

その中で、「睡眠時間を削れば、もっと自由に使える時間が増えるのではないか」と考えたくなることがあります。

書店やインターネット上にも、「訓練すれば誰でもショートスリーパーになれる」「短眠法で人生の時間を増やそう」といった魅力的な言葉が並んでいます。

テレビ番組やYouTubeでも、「ほとんど寝なくても平気」と語る人が取り上げられることがあります。

その真偽や実際の生活状態は、外からは簡単に判断できません。本人は本当に短い睡眠で生活できていると感じているのかもしれませんし、実際に特殊な体質を持っている可能性もあります。

けれど、たとえ本当に短い睡眠で活動できる人がいたとしても、それを一般の人がまねできるとは限りません。

ここを混同すると危険です。

ショートスリーパーは、「睡眠時間を削るのがうまい人」ではありません。短い睡眠時間でも健康に活動できる、かなり限られた体質を持つ人のことです。

現時点では、訓練によって誰でも本物のショートスリーパーになれるとは考えられていません。

むしろ、「自分は短くても大丈夫」と思っている人の中には、短眠体質ではなく、慢性的な睡眠不足に慣れてしまっている人も少なくありません。

睡眠不足の状態が続くと、眠気や疲れに対する感覚が鈍くなることがあります。本人は「意外と平気」と感じていても、集中力、判断力、反応速度などが落ちている場合があります。

つまり、短い睡眠で生活できているように見えても、本当に体に合っているとは限らないのです。

そもそも「ショートスリーパー」とは?その定義と実際の割合

世間では、短い睡眠時間で活動している人をざっくりと「ショートスリーパー」と呼ぶことがあります。

しかし、本来のショートスリーパーは、単に睡眠時間が短い人のことではありません。

一般的には、通常よりかなり短い睡眠時間でも、日中に強い眠気がなく、仕事や生活に大きな支障が出ない人を指します。

米国睡眠医学会の一般向け情報では、ショートスリーパーは、6時間未満の睡眠でも日中に元気で注意力が保たれている少数の人として説明されています。米国国立医学図書館のMedlinePlusでも、自然なショートスリーパーは、同年代の人に比べてかなり短く眠っても、異常な眠気が出ない人と説明されています。

ここで大切なのは、「短く寝ている人」と「本物のショートスリーパー」は違うということです。

たとえば、毎日5時間しか眠っていない人がいたとします。

しかし、その人が日中に眠気を感じている。
休日に長く寝てしまう。
会議中にぼんやりする。
集中力が落ちている。
朝起きたときから体が重い。

こうした状態があるなら、それは本物のショートスリーパーではなく、睡眠不足が続いている状態かもしれません。

また、日本の睡眠研究者の中にも、本当に短い睡眠で健康に生活できる人はごく一部だとする見解があります。
ただし、「短く眠っている人」の中には、不眠や生活習慣によって十分に眠れていない人も含まれるため、「短く眠っている人がいる」ことと、「誰でも短眠体質になれる」ことは分けて考える必要があります。

本物のショートスリーパーは「生まれつきの体質」に近い

自然に睡眠時間が短くても、日中に強い眠気が出たり、生活に支障が出たりしない人については、遺伝子との関係が研究されています。

2009年、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のインフイ・フー(Ying-Hui Fu)氏らは、自然に睡眠時間が短い家族を調べ、DEC2という遺伝子に特有の変化を持つ人では、そうでない家族よりも睡眠時間が短いことを報告しました。

遺伝子は、体のさまざまな働きを決めるための「設計図」のようなものです。DEC2もその一つで、睡眠や体内時計の調整に関係すると考えられています。

この遺伝子の変化を持つ人の平均睡眠時間は約6.25時間で、変化を持たない家族では約8.06時間でした。

さらに研究チームは、人だけでなくマウスでも同じ遺伝子の変化を再現して調べました。その結果、マウスでも睡眠時間が短くなりました。

人の家族だけを調べた場合、「たまたまその家族に共通する生活習慣があったのではないか」という可能性も残ります。しかし、同じ遺伝子の変化を持たせたマウスでも睡眠時間が短くなったことで、この遺伝子の変化そのものが睡眠時間の短さに関係している可能性がさらに強まりました。

2019年には、同じ研究グループが、ADRB1という別の遺伝子に特有の変化を持つ、自然なショートスリーパーの家族を報告しました。

この家族では、3世代にわたって自然に睡眠時間が短い人がみられました。研究チームが遺伝子を詳しく調べたところ、睡眠時間が短い家族に共通する、非常にまれなADRB1の変化が見つかりました。

ADRB1という名前だけを見ると難しく感じますが、ここで重要なのは、この遺伝子が「目を覚ましている状態を保つ働き」に関係していることです。

研究チームは、ADRB1の変化を持たせたマウスでも睡眠時間が短くなることを確認しました。

さらに、この遺伝子が強く働いている神経細胞が、脳の中の「脳幹」と呼ばれる部分にあることも調べました。

脳幹は、脳の下の方にあり、呼吸や心拍、眠っている状態から目を覚ます働きなど、生命を保つための基本的な機能に深く関わっている部分です。

研究では、このADRB1が関係する神経細胞が、眠っているときよりも目を覚ましているときに活発に働いていました。

さらに、その神経細胞を人工的に刺激すると、眠っていたマウスが目を覚ましました。

つまり、ADRB1の変化を持つ人では、脳の中の「目を覚ましている状態を支える仕組み」が、一般の人とは少し違っている可能性があります。

その後も、NPSR1など、自然な短時間睡眠と関係する別の遺伝子の変化が報告されています。

ただし、自然なショートスリーパーのすべてが、DEC2やADRB1などの同じ遺伝子の変化を持っているわけではありません。

現在分かっているのは、自然に睡眠時間が短い人の一部では、こうした生まれつきの遺伝的な特徴が関係しているということです。

つまり、本物のショートスリーパーは、単に「睡眠時間を削るのが得意な人」ではありません。

少なくとも一部の人では、生まれつき持っている体の仕組みそのものが一般の人とは異なり、そのために必要な睡眠時間が短い可能性があります。

ショートスリーパーは訓練でなれる?

世の中には、「睡眠時間を少しずつ短くしていけば、誰でもショートスリーパーになれる」とする本や情報があります。

しかし現在のところ、訓練によって、もともと7〜8時間程度の睡眠を必要とする人が、健康を保ったまま3〜4時間睡眠で十分な体質へ変わることを示した十分な科学的根拠はありません。

ここで大切なのは、「睡眠の質を良くすること」と「必要な睡眠時間そのものを大きく減らすこと」は別だという点です。

たとえば、

寝室の環境を整える。
寝る前のスマートフォンを減らす。
夜遅くのカフェインを避ける。
朝に日光を浴びる。

こうした工夫によって、眠りやすくなったり、途中で目が覚めにくくなったりすることはあります。

また、必要以上に長く布団に入っていた人であれば、生活を整えることで、実際に必要な睡眠時間に近づくこともあります。

しかし、それは「ショートスリーパーになった」という意味ではありません。

身長で考えると分かりやすいかもしれません。

姿勢を整えたり、十分な栄養をとったりすることで、その人が本来持っている能力を十分に発揮することはできます。

しかし、努力だけで身長を20センチ伸ばすことはできません。

睡眠時間もこれに似ています。

生活習慣を整えることで、自分に必要な睡眠をより効率よくとることはできます。

しかし、もともと7〜8時間程度の睡眠を必要とする人が、訓練だけで3〜4時間睡眠の体質に変わるとは、現在の科学からは考えにくいのです。

「眠らなくても平気」は思い込み?自称ショートスリーパーの正体

では、身の回りで「私は毎日4時間睡眠だけど問題ない」と話す人や、「短眠訓練に成功した」と主張する人はどう考えればよいのでしょうか。

睡眠医学の観点から見ると、その中には、本物のショートスリーパーではなく、慢性的な睡眠不足に慣れてしまっている人もいると考えられます。

睡眠不足のやっかいなところは、自分ではその影響に気づきにくいことです。

最初のうちは眠気やだるさをはっきり感じても、その状態が毎日続くと、「これが普通だ」と感じるようになることがあります。

しかし、本人が慣れたと感じることと、脳の働きが元に戻ることは同じではありません。

2003年、米国ペンシルベニア大学のハンス・P・A・ファン・ドンゲン(Hans P. A. Van Dongen)氏らは、21〜38歳の健康な成人48人を対象に、睡眠時間を減らした状態が続くと、注意力や反応速度がどのように変化するのかを調べました。

参加者は、毎晩8時間、6時間、4時間のいずれかを睡眠のために確保するグループに分けられ、その生活を14日間続けました。別のグループでは、3日間まったく眠らない条件も調べられました。

実験中は、画面に刺激が出たらできるだけ早く反応する検査などを繰り返し行い、注意力や反応速度の変化を測定しました。同時に、本人がどのくらい眠いと感じているかも調べました。

その結果、毎晩4時間または6時間しか眠らなかった人では、日がたつにつれて注意力や反応速度の低下が積み重なっていきました。

一方、本人が感じる眠気は、最初の数日ほど大きくは増え続けませんでした。

つまり、本人は次第に「このくらいの眠気なら大丈夫」と感じるようになっても、実際の注意力や反応速度はその後も低下していたのです。

この研究は、本物のショートスリーパーを調べた研究ではありません。もともと通常の睡眠時間をとっていた健康な人の睡眠時間を、実験的に短くしたものです。

そのため、「ショートスリーパーは能力が低下する」という意味ではありません。

重要なのは、普通の睡眠を必要とする人が睡眠時間を削った場合、「短い睡眠に慣れた」と感じることと、十分な睡眠がとれていることは別だという点です。

さらに、睡眠不足は注意力や眠気だけの問題ではありません。

米国国立心肺血液研究所(NHLBI)は、睡眠不足が心臓病、高血圧、糖尿病、脳卒中、肥満、うつ病など、さまざまな健康問題と関係すると説明しています。

血圧、血糖値、体重などは睡眠だけで決まるものではありません。しかし、睡眠不足が長く続くことは、体のさまざまな調整機能に負担をかけます。

「短眠に慣れた」のではなく、睡眠不足による変化を自分で感じにくくなっているだけという可能性もあるのです。

自分が睡眠不足ではないか確認する3つの目安

自分が本物のショートスリーパーかどうかを、簡単に確定できる検査は一般的ではありません。

ただし、「睡眠不足がたまっていないか」を確認する目安はあります。

以下の3つの視点から、自分の状態を見直してみてください。

1. 休日に平日より長く眠っていないか

休日に目覚まし時計をかけず、自然に目が覚めるまで眠ってみてください。

もし、休日の睡眠時間が平日より大きく長くなる場合、平日に足りていない睡眠を休日に補っている可能性があります。

本物のショートスリーパーであれば、短い睡眠でも日中に強い眠気がなく、休日に大きく寝だめする必要も少ないと考えられます。

もちろん、たまたま疲れていた週もあります。
一度だけで判断する必要はありません。

ただし、毎週のように休日だけ長く眠っているなら、睡眠不足がたまっているサインとして見たほうがよいでしょう。

2. 日中に眠気や集中力低下がないか

次のような状態がないか確認してみてください。

  • 朝起きるのがつらい
  • 午前中から頭が重い
  • 昼食後に強い眠気が出る
  • 電車やソファでうたた寝してしまう
  • 会議中に集中力が切れやすい
  • 小さなことでイライラしやすい
  • 休日に寝だめをしてしまう

こうした項目が複数当てはまる場合や、何週間も続いている場合は、睡眠不足がたまっている可能性があります。

「短い睡眠で大丈夫」と思っていても、日中の状態を見れば、体が別のサインを出していることがあります。

3. 「短く眠れる体質」と思い込んでいないか

本物のショートスリーパーは、短い睡眠でも日中の眠気が少なく、生活に大きな支障が出にくいとされています。

しかし、これはごく一部の人に限られます。

「自分は短くても平気」と思っていても、実際にはコーヒーで眠気をごまかしていたり、休日に長く寝て補っていたりすることがあります。

本当に短眠体質かどうかを自分だけで判断するのは難しいです。

だからこそ、
「自分は特別だから大丈夫」と考える前に、日中の眠気、集中力、朝の疲れ方を冷静に見ることが大切です。

偉人たちの睡眠伝説をそのまま信じないほうがいい

短時間睡眠の話になると、よく歴史上の偉人が引き合いに出されます。

「ナポレオンは1日3時間しか眠らなかった」
「有名な経営者は、ほとんど寝ずに働いていた」

こうした話を聞くと、「自分も睡眠を削れば、もっと成果を出せるのではないか」と思うかもしれません。

しかし、偉人の睡眠伝説には注意が必要です。

昔の人物の睡眠時間は、正確に記録されていないことも多くあります。
夜の睡眠は短くても、日中に居眠りをしていた可能性もあります。
本人の言葉が、後から大げさに伝わっていることもあります。

つまり、偉人の逸話をそのまま自分の生活に当てはめるのは危険です。

これは、スポーツで考えるとわかりやすいです。

世の中には、100メートルを10秒前後で走れる人がいます。
しかし、それを見て、「同じ人間だから、自分も練習すれば同じように走れる」と考えるのは無理があります。

睡眠も同じです。

例外的な体質の人を見て、「自分も睡眠時間を削って大丈夫」と考えるのは危険です。

偉大な業績を残すために必要なのは、無理に睡眠時間を削ることではありません。

自分に必要な睡眠時間を確保し、起きている時間の集中力と判断力を保つことです。

無理な短眠は、健康と仕事の質に影響する

遺伝的に短眠に向いていない人が睡眠時間を削り続けると、その影響は日中の注意力だけにとどまりません。

睡眠不足が続くと、集中力や判断力が落ちやすくなります。
イライラしやすくなることもあります。
食欲の調整が乱れ、夜遅くに食べたくなることもあります。

さらに、睡眠時間と死亡リスクの関係については、日本人を対象にした大規模な追跡研究でも調べられています。

日本人を対象に、生活習慣と死亡リスクの関係を長期間追跡した大規模研究があります。
この研究は、JACC Studyとして知られています。

その中で、睡眠時間と全死亡リスクの関係も分析されています。
結果として、7時間前後の睡眠で死亡リスクが低い傾向が示されました。一方で、睡眠時間が短すぎる人や長すぎる人では、死亡リスクが高くなる傾向も報告されています。

ただし、これは「7時間ぴったり眠れば必ず長生きする」という意味ではありません。

睡眠時間は、病気、体調、生活習慣、年齢、ストレスとも関係します。

それでも、毎日5時間前後の睡眠が続いているなら、「自分は短くても大丈夫」と考える前に、睡眠不足が体に負担をかけていないか見直す価値があります。

また、睡眠不足が強くなると、本人の自覚がないまま、数秒間だけ意識が途切れるような状態が起こることがあります。

これはマイクロスリープと呼ばれます。

運転中や作業中に起きると、事故につながるおそれがあります。
長い通勤や車の運転がある人は、特に注意が必要です。

まとめ:短眠を目指すより、まず睡眠不足を疑う

「あなたもショートスリーパーになれる」

この言葉は、忙しい人にとって魅力的です。

睡眠時間を削れば、仕事も勉強も趣味も、もっとできるように感じます。

しかし、現時点の睡眠科学では、訓練によって誰でも本物のショートスリーパーになれるとは考えられていません。

本当に短い睡眠で問題なく生活できる人は、一部に限られます。少なくともその一部では、自然な短時間睡眠に関係する遺伝的な特徴が報告されています。

一方で、「自分は短くても大丈夫」と思っている人の中には、睡眠不足に慣れてしまっている人も少なくありません。

毎日5〜6時間睡眠が続いている。
朝から体が重い。
日中に眠気がある。
休日に長く寝てしまう。
集中力が落ちている。

こうした状態があるなら、まず睡眠不足を疑ったほうがよいでしょう。

睡眠時間を削ることは、短期的には時間を増やしているように見えます。
しかし、集中力、判断力、体調管理という面では、あとから大きな負担になることがあります。

大切なのは、自分に必要な睡眠時間を確保し、起きている時間の質を上げることです。

成人の場合、米国疾病予防対策センター(CDC)は、1日7時間以上の睡眠を推奨しています。米国睡眠医学会などの共同声明でも、成人は健康維持のために毎晩7時間以上眠ることが推奨されています。

まずは、7時間以上の睡眠を確保できる日を少しずつ増やすこと。
そして、朝の疲れ方、日中の眠気、集中力の変化を見ていくこと。

これが、現実的な睡眠改善の第一歩になります。

睡眠不足の影響は、眠気や集中力の低下だけではありません。相手の言葉や表情を、普段より強く受け取ってしまうなど、感情の受け取り方にも影響することがあります。

→  睡眠不足だと相手の言葉に敏感になる?睡眠不足と感情のコントロール

ただし、短い睡眠が続いている人にとって、もう一つ注意したい現象があります。

それが、マイクロスリープです。

マイクロスリープとは、本人が起きているつもりでも、脳が数秒だけ眠りに落ちてしまう現象です。

「少しくらい眠くても大丈夫」
「自分は短時間睡眠に慣れている」

そう思っていても、脳は限界に近づくと、強制的に眠りを取りにいくことがあります。

本人が気づかないまま起こる短い眠りと、睡眠不足が注意力や判断力に与える影響については、こちらの記事で詳しく見ていきます。

→ マイクロスリープとは? 数秒の寝落ちが重大なミスにつながる理由

参考URL

  • URLをコピーしました!
目次