寝不足だと相手の言葉に敏感になる?睡眠不足と感情のコントロール

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寝不足になると、普段なら流せることにも腹が立ちやすくなる

寝不足の日は、大きな問題が起きていなくても、普段なら気にせずに済む一言や小さな予定変更に腹が立つことがあります。いったん腹が立つと気持ちを切り替えにくくなり、相手の何気ない表情や言葉まで悪く受け取りやすくなることもあります。

2012年、米国ペンシルベニア大学のジャレッド・ミンケル氏らは、健康な成人53人を、一晩眠らないグループと通常どおり眠るグループに分け、難しさや時間制限の異なる課題を行わせました。その結果、負担の小さい課題では、眠らなかった人のほうがストレス、不安、怒りを強く感じていました。一方、負担の大きい課題では、両グループの差ははっきりしませんでした。

この結果から、寝不足の影響は、誰でも強く反応するような大きな問題よりも、普段なら流せる程度の小さな出来事に表れやすい可能性があります。

睡眠不足の影響は、怒りだけに表れるわけではありません。2024年、米国モンタナ州立大学のカーラ・パーマー氏らは、睡眠不足と感情に関する154件の実験研究をまとめて分析しました。対象となった人は7歳から79歳までの計5,717人です。その結果、一晩眠らない、睡眠時間を短くする、夜中に何度も起こすといった睡眠不足によって、喜びや満足感などの前向きな感情が弱まり、不安が強くなる傾向が確認されました。

寝不足の日に普段より何にでも腹が立つと感じるときは、周囲で嫌なことが増えたのではなく、同じ出来事をいつもより重く受け止めているからです。

寝不足になると、嫌な刺激に対する扁桃体の反応が強くなる

睡眠不足と感情の関係を考えるうえで重要なのが、脳の「扁桃体」です。

扁桃体は脳の奥にあり、目の前のものが危険か、不快か、注意すべきかを素早く捉える働きに関わっています。危険を察知したときに、逃げるか戦うかといった反応につなげる役割もあります。

2007年、米国カリフォルニア大学バークレー校とハーバード大学医学大学院のスンシク・ユ氏、マシュー・ウォーカー氏らは、健康な成人26人を対象に、睡眠不足が脳の反応に与える影響を調べました。

参加者の半数は通常どおり一晩眠り、残りの半数は約35時間起きたまま過ごしました。その後、中立的なものから強い不快感を与えるものまで、段階的に変化する画像を見せ、脳の活動をfMRIで測定しました。

その結果、眠らなかった人では、通常どおり眠った人よりも、不快な画像を見たときの扁桃体の反応が60%以上強くなっていました。また、扁桃体と、感情や行動の調整に関わる前頭前野とのつながりも弱くなっていました。

この研究は、一晩まったく眠らないという条件で行われています。しかし、日常生活に近い形で睡眠時間を短くした研究でも、似た変化が確認されています。

2013年、国立精神・神経医療研究センターの本村祐樹氏らは、健康な成人男性14人を対象に、5日間にわたって睡眠時間を短くしたときの脳の反応を調べました。参加者には、毎晩8時間ベッドで過ごす期間と、毎晩4時間だけベッドで過ごす期間の両方を経験してもらいました。

5日目に恐怖を表す顔を見せて脳の活動を調べたところ、睡眠時間を4時間に制限した場合には、8時間眠った場合よりも左側の扁桃体の反応が強くなっていました。さらに、扁桃体と感情を調整する脳の領域とのつながりが弱くなり、その変化が大きい人ほど不安や気分の悪化も強くなっていました。

つまり、寝不足になると、嫌な刺激を素早く捉える扁桃体の反応が強くなる一方で、その反応を調整する脳の領域との連携は弱くなります。感情が強く動きやすくなるだけでなく、動いた感情を落ち着かせにくくなる仕組みも、ここにあると考えられます。

寝不足になると、相手の表情を読み取りにくくなる

人は、相手の言葉だけでなく、表情からも気持ちを読み取っています。寝不足になると、この表情の受け取り方にも変化が起こります。

2010年、米国カリフォルニア大学バークレー校のエルス・ファン・デル・ヘルム氏、ニナド・グジャール氏、マシュー・ウォーカー氏は、18歳から25歳までの健康な男女37人を対象に、睡眠不足が表情の見え方に与える影響を調べました。

参加者は、一晩眠らずに過ごす20人と、通常どおり眠る17人に分けられました。その後、怒り、喜び、悲しみが表れた顔の写真を見て、それぞれの表情に感情がどの程度強く表れているかを評価しました。

実験で使われたのは、実際に怒りや喜びの程度が異なる人を撮影した写真ではありません。同じ人物の無表情の顔と、怒りや喜びがはっきり表れた顔を画像処理でつなぎ、その間を段階的に変化させた写真です。

たとえば怒りの写真であれば、無表情の顔から、明らかに怒っている顔までが少しずつ変化します。参加者はそれぞれの写真を見て、表情が無表情に近いのか、それとも怒りがはっきり表れているのかを評価しました。

その結果、一晩眠らなかった人は、無表情と、怒りや喜びがはっきり表れた顔との中間にあたる写真を、通常どおり眠った人よりも無表情に近いと評価していました。つまり、同じ写真を見ても、そこに表れている怒りや喜びを弱く受け取っていたということです。

この変化は、特に女性の参加者で大きく見られました。女性では、一晩眠らなかった後に、怒りや喜びが表れた顔を無表情に近いと評価する傾向が強くなっていました。また、一晩眠った後には、怒りや喜びの表情に対する評価は元の水準に戻りました。

この研究から、寝不足になると、相手の表情に表れた感情を普段どおりに捉えにくくなることが分かります。自分の感情が強く動きやすくなるだけでなく、相手がどのような反応を示しているのかも読み違えやすくなるのです。相手の表情を正確に受け取れなければ、会話の意図を取り違えたり、必要のなかったすれ違いが生まれたりすることにもつながります。

寝不足だと気づいたら、感情ではなく行動を少し遅らせる

寝不足のときに、自分がいつもより怒りっぽくなっているのか、相手の表情を読み違えているのかを、その場で正確に判断するのは難しいものです。

だからといって、自分の感情を細かく分析する必要はありません。「今日は眠い」「あまり眠れなかった」と気づいたときに、寝不足では感情への反応が強くなり、相手の反応も普段どおりに受け取れないことがあると思い出せれば十分です。

腹が立った気持ちを無理に抑えるのではなく、言い返す、メールを送る、相手を注意するといった行動だけを少し遅らせます。一晩眠った後でも同じように感じるなら、そのとき対応すればいいのです。

寝不足だと気づいたら、感情をすぐに行動へ移さない。この記事の内容が、そんなときに思い出す小さなヒントになれば十分です。

まとめ

寝不足になると、普段なら流せるような一言や小さな出来事にも、強く反応しやすくなります。一晩眠らなかった人を調べた研究では、不快な画像を見たときの扁桃体の反応が強まり、感情や行動の調整に関わる脳の領域とのつながりが弱くなっていました。

寝不足の影響は、自分の感情だけに表れるわけではありません。別の研究では、一晩眠らなかった人は、同じ顔を見ても、そこに表れている怒りや喜びを、通常どおり眠った人より弱く受け取っていました。自分は普段より強く反応しやすい一方で、相手の表情に表れた感情は普段どおりに捉えにくくなるのです。

ただし、寝不足の最中に、自分が強く反応しているのか、相手の反応を読み違えているのかを、その場で正確に判断するのは簡単ではありません。

「昨夜はあまり眠れなかった」「朝から眠い」と感じたときは、自分の感情が正しいかどうかを、その場で決めようとしないことです。感情はそのままでも、返答や判断を急がず、行動に移すまで少し時間を置くことはできます。

寝不足だと気づいたら、感情ではなく行動を少し遅らせる。それが、必要のなかった衝突を避けるための一つの方法です。

ただし、寝不足の影響は、その場でイライラしやすくなることだけではありません。
嫌な出来事があったあとに、気持ちがなかなか切り替わらず、何度も思い返してしまうこともあります。

感情が強く出ることと、その感情を長く引きずることは同じではありません。
睡眠が、その後の気持ちの残り方にどう関わるのかを知っておくことも大切です。

→ 寝不足だと嫌なことを引きずりやすい?睡眠とネガティブな感情

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