寝る前に考え事が止まらないときの対処法|呼吸と体を使った実践法
考え事を止めようとしなくていい
布団に入って照明を消した途端、昼間の仕事や明日の予定、誰かに言われた一言などが頭に浮かんでくることがあります。
「もう寝なければ」
「明日は早いのに」
「何も考えないようにしよう」
そう思うほど、次から次へと別の考えが浮かび、気づけば頭の中で一人反省会が始まっている。
そんな夜に必要なのは、考え事を力ずくで消すことではありません。
ここで行うのは、考え事に向いている意識を、呼吸や体の感覚へ少しずつ移していく方法です。
考え事が途中で戻ってきても構いません。
気づいたら、また呼吸や体へ戻します。
また考え始めたら、もう一度戻します。
基本はその繰り返しです。
「何も考えない状態」を作る必要はありません。
特別な道具も必要ありません。
布団の中でそのまま始められます。
まずは呼吸の感覚に意識を向ける
最初に意識を向けるのは呼吸です。
ただし、「深く吸わなければ」「ゆっくり吐かなければ」と呼吸をコントロールする必要はありません。
今している呼吸を、そのまま感じます。
まず、布団の中で楽な姿勢をとります。
仰向けでも横向きでも構いません。
「この姿勢でなければいけない」という決まりを作る必要はありません。
肩や腕も、自分が一番楽だと感じる位置に置きます。
姿勢が決まったら、静かに目を閉じます。
そして、呼吸に注意を向けます。
息が浅くても構いません。
少し速くても構いません。
大きくしようとせず、ゆっくりさせようともせず、今の呼吸をそのまま感じます。
「今、息を吸っている」
「今、息を吐いている」
まずはそれだけで十分です。
鼻・胸・お腹のどれか一つに意識を向ける
「呼吸に意識を向ける」と言われても、最初は何を感じればよいのか分かりにくいかもしれません。
そんなときは、呼吸によって起きている体の感覚から、一つだけ選びます。
たとえば鼻です。
息を吸うと、鼻の入り口を空気が通ります。
吐くときにも、同じ場所を空気が通ります。
その感覚に意識を向けます。
鼻では分かりにくければ、お腹でも構いません。
息を吸うと少し膨らみ、吐くと元に戻ります。
胸の動きの方が分かりやすい人なら、胸でも構いません。
大切なのは、一度に全部を感じようとしないことです。
鼻なら鼻。
お腹ならお腹。
胸なら胸。
自分が一番分かりやすい場所を一つ選び、そこに意識を置いてみます。
呼吸をうまくする必要はありません。
呼吸を変えるのではなく、今している呼吸を感じることが目的です。
考え事が浮かんできても、それは失敗ではない
呼吸に注意を向けていても、しばらくすると別の考えが浮かんできます。
「明日の仕事、どうしよう」
「そういえばメールを返していない」
「今日、あんなことを言わなければよかった」
気づけば、また頭の中で考え事が始まっていることがあります。
それで構いません。
考え事が浮かんだこと自体を、失敗だと考える必要はありません。
気づいたときに、
「あ、今仕事のことを考えていた」
と分かれば十分です。
そこで、
「どうしてまた考えてしまったんだろう」
「こんなことでは眠れない」
「もっと集中しなければ」
と、新しい考えを付け加えないようにします。
考えていたことに気づいたら、その内容を追いかけるのをやめ、先ほど選んだ呼吸の感覚へ戻します。
鼻を選んだ人なら、もう一度鼻を通る空気へ。
お腹を選んだ人なら、お腹の動きへ。
考え事が10回戻ってきたら、10回呼吸へ戻します。
何度それても、そのたびに戻せば構いません。
「考えないようにする」のではなく、「考えていたことに気づいたら戻る」という方法です。
呼吸の次は、体の感覚へ意識を移していく
呼吸をしばらく感じたあと、そのまま体の感覚へ意識を移していくこともできます。
ここでも、「体の力を完全に抜こう」と頑張る必要はありません。
今、その場所で感じられるものを確認していきます。
まず、左足の指先に注意を向けます。
布団に触れている感覚。
温かさ。
冷たさ。
重さ。
何か感じられるものがあれば、そのまま感じます。
はっきりした感覚がなくても問題ありません。
次に、左足の裏。
足首。
ふくらはぎ。
太もも。
というように、少しずつ意識を上へ移していきます。
左足が終わったら、右足も同じように感じます。
その次は、お尻、腰、背中へと進みます。
体のどこが布団に触れているでしょうか。
どこに体重がかかっているでしょうか。
その感覚をそのまま感じます。
さらに、手の指、手のひら、腕、肩へと注意を移します。
最後に首や顔へ移ります。
頬。
顎。
まぶた。
額。
後頭部。
「温かい」
「枕に触れている」
「少し重い」
など、今感じていることをそのまま確認します。
全身を一度に感じようとする必要はありません。
一か所ずつ、ゆっくり移動していけば十分です。
体を感じている途中で、また考え始めたら戻る
体の感覚へ意識を向けている途中でも、また考え事が始まることがあります。
たとえば、ふくらはぎを感じていたはずなのに、いつの間にか明日の予定を考えていた。
そんなこともあります。
その場合も、呼吸のときと同じです。
「あ、また考えていた」
と気づきます。
そして、直前まで感じていた体の場所へ戻ります。
ふくらはぎなら、もう一度ふくらはぎ。
手なら、もう一度手。
どこまで進んだか分からなくなった場合は、最初からやり直す必要もありません。
今分かる場所から再開すれば構いません。
順番を完璧に守ることが目的ではありません。
考え事に気づいたときに、呼吸や体の感覚へ意識を戻すことが大切です。
「うまくできているか」を確認しすぎない
この方法を続けていると、
「ちゃんとできているかな」
「もう眠くなってきただろうか」
「まだ眠れない」
「このやり方は本当に効いているのかな」
と確認したくなることがあります。
しかし、その確認自体が次の考え事になります。
そのため、途中で結果を判定する必要はありません。
「うまくできたか」
「眠れそうか」
を何度も確認するより、呼吸や体の感覚へ意識を戻すことだけを続けます。
途中で何度も考え事が出てきても構いません。
体の感覚が分かりにくい場所があっても構いません。
呼吸に長く集中できなくても構いません。
この方法では、「一度も考え事をしなかった」ことが成功ではありません。
考え事に気づき、また呼吸や体へ戻る。
それを繰り返せれば十分です。
「この方法で早く眠ろう」としすぎない
もう一つ注意したいのが、
「この方法をやれば、すぐ眠れるはずだ」
と強く期待しすぎることです。
そうすると、
「まだ眠れない」
「もう何分たっただろう」
「効いていないのではないか」
という別の考え事が始まりやすくなります。
眠りは、自分の意志だけで起こせるものではありません。
そのため、
「今すぐ眠ろう」
と頑張るのではなく、
「今は呼吸や体の感覚に注意を戻す」
くらいに考えておきます。
眠れるかどうかは、いったん横に置いておきます。
今やることは、考え事に気づいたら、呼吸や体へ戻ることだけです。
それでも目が冴えているなら、いったん布団を出る
呼吸や体の感覚に注意を向けても、どうしても目が冴えたままの夜もあります。
そんなときに、何時間も布団の中で粘り続ける必要はありません。
しばらく横になっていても眠れず、
「もう目が冴えてしまった」
「眠れないこと自体が気になってきた」
と感じるようなら、いったん布団を出ます。
これは、不眠症の認知行動療法でも使われる刺激制御療法の考え方です。
眠れないまま布団の中で長く過ごしていると、布団と「眠れずに考え事をする状態」が結びついてしまうことがあります。
そのため、目が冴えた状態が続いているなら、一度場所を変えます。
「20分たったら必ず出る」などと、時計を見ながら正確に時間を測る必要はありません。
時計を何度も確認すると、
「もうこんな時間だ」
「あと何時間しか眠れない」
と、新しい焦りにつながることがあります。
時間ではなく、
「しばらく横になっているけれど、まだ目が冴えている」
という自分の感覚を目安にします。
布団を出たら、眠気が戻るまで静かに過ごす
布団を出たあとに、活動を始めるわけではありません。
照明は必要以上に明るくせず、静かに過ごします。
スマートフォンやパソコンなど、光や情報の刺激が多いものは避けます。
仕事を始めたり、メールを確認したりするのも避けます。
読書など、刺激の少ないことをしながら過ごします。
そして、
「まぶたが重くなってきた」
「あくびが出てきた」
「少し眠くなってきた」
と感じたら、もう一度布団へ戻ります。
戻ってからまた考え事が始まった場合は、同じです。
自然な呼吸を感じます。
考え事に気づいたら、呼吸へ戻ります。
必要であれば、そこから体の感覚へ意識を移していきます。
一度でうまくいかなかったとしても、布団の中で無理に粘り続ける必要はありません。
まとめ:考え事は止めるのではなく、呼吸や体へ意識を戻す
寝る前に考え事が止まらなくなったとき、「何も考えないようにしよう」と頭の中の考えを無理に消す必要はありません。
まずは布団の中で楽な姿勢になり、呼吸を変えずに、鼻を通る空気や胸、お腹の動きなど、一つの感覚に意識を向けます。
考え事が浮かんだら、それを失敗だと考える必要はありません。
「あ、今考えていた」と気づいたら、その内容を追いかけず、もう一度呼吸へ戻ります。
そのあと、足先や脚、腰、背中、手、肩、顔などへ、少しずつ意識を移していきます。
途中でまた考え事が始まったら、また呼吸や体へ戻れば構いません。
「うまくできているか」
「もう眠れるか」
「まだ眠れないのか」
と結果を確認し続ける必要もありません。
そして、目が冴えた状態が続くなら、無理に布団の中で粘らず、一度布団を出て静かに過ごし、眠気が戻ってから再び布団へ戻ります。
考え事を消すのではなく、考え事に気づいたら、呼吸や体へ戻る。
また考え始めたら、もう一度戻る。
この単純な流れを繰り返すことが、この方法の基本です。
参考URL
- 米国睡眠医学会(AASM):成人の慢性不眠症に対する認知行動療法、刺激制御療法、リラクゼーション療法などについて、過去の研究をもとに推奨内容をまとめた臨床ガイドライン
Behavioral and Psychological Treatments for Chronic Insomnia Disorder in Adults: An American Academy of Sleep Medicine Clinical Practice Guideline
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7853203/ - カナダ・ラヴァル大学:成人の不眠症に対する刺激制御療法について、過去の研究をまとめて効果を検討したシステマティックレビュー・ネットワークメタ解析
The Effectiveness of Stimulus Control in Cognitive Behavioural Therapy for Insomnia in Adults: A Systematic Review and Network Meta-analysis
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37586843/ - 中国・第二軍医大学:不眠に対して呼吸や身体感覚などへ注意を向ける方法を含む介入について、6件のランダム化比較試験、合計330人の結果をまとめたメタ解析
Mindfulness Meditation for Insomnia: A Meta-analysis of Randomized Controlled Trials
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27663102/ - 英国・オックスフォード大学:不眠のある41人を対象に、寝る前の不要な考え事に対してイメージを使って注意をそらす方法、一般的に注意をそらす方法、特別な指示をしない方法を比較した研究
The Management of Unwanted Pre-sleep Thoughts in Insomnia: Distraction with Imagery versus General Distraction
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11863237/
