考え事が止まらない夜、意識を呼吸や身体に向けると眠りやすくなる?

目次

考え事を無理に消そうとしない

布団に入り、眠ろうと思っているのに仕事や明日の予定、昼間にあったことなどが次々と頭に浮かんでくることがあります。

「早く眠らなければ」
「何も考えないようにしよう」

そう思っても、なかなか考え事が止まらないことがあります。

そんなときには、浮かんできた考えを無理に消そうとするのではなく、

「今、仕事のことを考えているな」
「明日のことを心配しているな」

と、自分が何を考えているのかに意識を向けます。

そして、意識の向け先を呼吸や体の感覚など、今、身体で感じているものへ向けるのです。

こうした方法は「マインドフルネス」と呼ばれています。

マインドフルネスは「何も考えない」ことではない

マインドフルネスという言葉を聞いたことはあっても、実際に何をするものなのか分からない人もいるかもしれません。

マインドフルネスは、頭の中を空っぽにする方法ではありません。

たとえば、呼吸に意識を向けている途中で、

「明日の会議の準備をしなければ」

という考えが浮かんだとします。

そこで、

「また考えてしまった」
「何も考えないようにしなければ」

と思う必要はありません。

「今、明日の会議のことを考えていたな」

と気づいて、もう一度、呼吸している感覚に意識を戻します。

しばらくすると、また別のことを考えるかもしれません。

そのときも同じです。

考えていたことに気づき、もう一度、呼吸や体の感覚に意識を戻します。

考え事を完全になくすのではなく、考え事が始まったことに気づき、そこから意識を戻していくのが基本です。

慢性的な不眠がある54人を8週間調べ、その後6か月まで追跡した研究

2014年、米国ラッシュ大学医療センターのジェイソン・C・オン(Jason C. Ong)氏らは、慢性的な不眠がある成人54人を対象に、マインドフルネスを取り入れた方法が睡眠にどのような影響を与えるかを調べました。

参加者は、寝つくまでに30分以上かかる、または夜中に目が覚めてから30分以上眠れない状態が週3回以上あり、それが6か月以上続いている人たちです。平均年齢は42.9歳でした。

参加者は、無作為に3つのグループに分けられました。

1つ目のグループは、8週間にわたって一般的なマインドフルネスのプログラムを行いました。

呼吸に意識を向ける瞑想、体の感覚を順番に確認していくボディスキャン、座って行う瞑想、ヨガ、歩きながら行う瞑想などです。

自宅でも1日30〜45分、週6日以上行うよう求められました。

これは不眠だけを対象にしたものではなく、自分の考えや感情、体の感覚に意識を向ける方法を身につけるための一般的なマインドフルネスのプログラムです。

2つ目のグループも、同じく8週間にわたってマインドフルネスを行いました。

ただし、こちらは不眠の人向けに作られたプログラムです。

マインドフルネスに加えて、実際に眠っている時間に合わせて布団にいる時間を調整する方法や、眠れない状態が続いたらいったん布団から出る方法、睡眠に影響する生活習慣についての指導なども行われました。

3つ目のグループは、こうしたプログラムを受けず、8週間にわたって自分の睡眠状態を記録しました。

ただし、睡眠日誌をつけたのは3つ目のグループだけではありません。3つのグループすべてが睡眠日誌をつけています。

研究者たちは、その記録から、寝つくまでにかかった時間や、夜中に目が覚めてから眠れずにいた時間などを調べました。

さらに、脳波や呼吸、心拍などを測って睡眠の状態を詳しく調べる検査や、腕時計のような機器を手首につけ、体の動きから睡眠と覚醒を推定する測定も行いました。

8週間後、睡眠はどう変わったのか

研究開始前と8週間後を比べると、マインドフルネスを行った2つのグループでは、1晩あたり、寝つくまでの時間と夜中に目が覚めていた時間を合わせた「布団の中で眠らずに起きていた時間」が、平均43.75分短くなっていました。

一方、睡眠状態を記録しただけのグループでは、平均1.09分の短縮でした。

8週間の間に「布団の中で眠らずに起きていた時間」が短くなっていく速さは、1つ目の一般的なマインドフルネスのグループでは1週間あたり平均4.30分、2つ目の不眠向けのグループでは平均6.00分でした。

ただし、8週間終了時点では、1つ目と2つ目のグループの間に明確な差があったとは確認されていません。

寝る前の「頭や体の高ぶり」も改善した

研究では、寝る前に頭や体がどのくらい高ぶっているかについても調べました。

これは、寝る前に頭が冴えている、考えが頭から離れない、体が緊張しているといった状態について、16個の別々の質問に1〜5点で答える方法です。

16問の点数を合計するため、最低16点、最高80点になります。点数が高いほど、寝る前の心身の覚醒が強いことを表します。

研究開始前と8週間後を比べると、マインドフルネスを行った2つのグループでは平均7.13点低下しました。

一方、睡眠状態を記録しただけのグループでは、0.16点の低下でした。

特に注目したいのは、この結果です。

単に睡眠時間だけではなく、「布団に入っても頭が冴えている」「考え事が止まらない」といった寝る前の状態にも改善がみられました。

不眠そのものの重症度はどう変わったのか

さらに、不眠そのものがどの程度重いのかについても、別の質問票を使って調べました。

こちらは、寝つきの悪さ、夜中の目覚め、早朝に目が覚めること、睡眠への満足度、日中への影響などについて、7個の質問に答える方法です。

合計は0〜28点になり、点数が高いほど不眠が重いことを表します。

研究開始前と8週間後を比べると、1つ目の一般的なマインドフルネスのグループでは平均4.56点低下しました。

2つ目の不眠向けのグループでは、平均5.41点低下しました。

一方、睡眠状態を記録しただけのグループでは、平均0.06点上がっていました。

ただし、この時点では、1つ目と2つ目のグループの間に明確な差は確認されませんでした。

研究は8週間で終わらず、3か月後と6か月後にも調べている

8週間のプログラムが終わったあとも、1つ目と2つ目のグループについては、3か月後と6か月後に追跡調査が行われました。

ここで重要なのは、8週間の正式なプログラムはすでに終了していることです。

その後、参加者がマインドフルネスをどの程度続けていたのかについては、8週間のプログラム中と同じようには詳しく報告されていません。

そのため、3か月後や6か月後にみられた変化が、8週間のプログラムの効果がそのまま続いていたものなのか、それとも参加者がその後も自分でマインドフルネスなどを続けていた影響なのかは、この研究だけでは分かりません。

追跡調査では、2つのグループを合わせると、6か月後の「布団の中で眠らずに起きていた時間」は、8週間のプログラムを始める前より1晩あたり平均49.63分短くなっていました。

不眠の重症度については、長期的に見ると、不眠への行動療法も組み合わせた2つ目のグループの方が、一般的なマインドフルネスだけを行った1つ目のグループより改善する傾向がみられました。

特に3か月後には、2つ目のグループの方が不眠の重症度が有意に低くなっていました。

ただし、6か月後には、2つのグループの差は統計的には明確ではなくなっています。

6か月後の2つ目のグループでは、78.6%の人が、不眠の重症度が7点以上下がる「治療による意味のある改善」に達していました。

また、50%の人は、不眠の重症度が8点未満となり、「不眠がほぼ問題にならない状態」と判断されました。

ただし、この割合については、1つ目と2つ目のグループの間に統計的に明確な差が確認されたわけではありません。

この研究からどこまで言えるのか

この研究では、一般的なマインドフルネスだけを行ったグループでも、睡眠状態を記録しただけのグループより、本人が感じる睡眠状態や寝る前の心身の覚醒、不眠の重症度が改善しました。

一方、不眠への具体的な行動療法まで組み合わせたグループでは、3か月後の不眠の重症度で、一般的なマインドフルネスだけのグループより良い結果がみられました。

ただし、本人がつけた睡眠日誌では大きな改善がみられた一方で、脳波などを使って測った睡眠では、グループ間にはっきりした改善が確認されたわけではありません。

つまり、この研究は、

「マインドフルネスを1回やれば、その夜すぐ眠れる」

ことを示した研究ではありません。

8週間にわたって取り組んだ結果、本人が感じる睡眠状態や、寝る前の心身の覚醒、不眠の重症度が改善した研究です。

また、3か月後や6か月後にも改善がみられましたが、その間に参加者がマインドフルネスをどの程度続けていたのかは十分に分かっていません。

マインドフルネスが慢性的な不眠に役立つ可能性を示した研究ではありますが、「どのくらい続ければ、どの程度の効果が出るのか」「やめたあとも効果が続くのか」については、この研究だけではまだ分からない部分があります。

18の研究、1,654人をまとめて調べた研究

1つの研究だけでは、マインドフルネスが睡眠に本当に役立つのかを十分に判断することはできません。

そこで参考になるのが、複数の研究をまとめて分析した研究です。

米国国立衛生研究所(NIH)のヘザー・L・ラッシュ(Heather L. Rusch)氏らは、マインドフルネス瞑想と睡眠について調べた研究を集め、その結果をまとめて分析しました。

研究者らは最初に3,303件の文献を調べ、その中から条件に合った18件のランダム化比較試験を選びました。参加者は合計1,654人です。

18の研究で行われていたマインドフルネスの方法は、すべて同じではありませんでした。

最も多かったのは、呼吸や体の感覚などに意識を向ける「マインドフルネス・ストレス低減法」で、18研究のうち9研究で使われていました。

そのほかにも、マインドフルネスと心理的な治療を組み合わせた方法などが含まれていました。

行った期間も研究によって異なり、2週間から16週間でした。

教室などで行う場合は、週1回、1〜2時間半ほどマインドフルネスを行っていました。

また、18研究すべてで、自宅でもマインドフルネスを行うようすすめられていました。そのうち12研究では、1日15〜60分ほど行うよう具体的な時間まで決められていました。

つまり、この研究で調べたのは、

「布団の中で一度だけ呼吸に意識を向ければ、その夜すぐに眠れるのか」

ということではありません。

数週間にわたってマインドフルネスを続けた研究をまとめて調べたものです。

この分析で特に重要なのが、「マインドフルネスを何と比べたのか」という点です。

研究者らは、比較する相手を大きく2つに分けました。

1つ目は、すでに睡眠を改善する効果が確認されている治療です。

その中には、不眠に対する「認知行動療法」と呼ばれる治療も含まれていました。

認知行動療法では、たとえば、眠れないまま長い時間布団にいないようにしたり、実際に眠っている時間に合わせて布団にいる時間を調整したりします。

さらに、

「眠れないと明日は何もできない」
「今すぐ眠らなければならない」

など、睡眠への不安を強くする考え方を見直したり、睡眠に影響する生活習慣を整えたりします。

こうした、すでに睡眠への効果が確認されている治療とマインドフルネスを比べた研究は7件ありました。

もう1つは、健康について学ぶプログラムなどとの比較です。

こちらでは、参加者は健康についての説明を受けたり、マインドフルネスのグループと同じくらい研究者と接したりしますが、不眠そのものを改善するための専門的な治療は受けません。

こうした方法と比較した研究は11件ありました。

結果は、比較する相手によって違っていました。

健康について学ぶプログラムなどと比較した研究では、マインドフルネスを行ったグループの方が、プログラム終了後の睡眠の質が改善していました。

さらに、その後5〜12か月まで追跡した研究をまとめても、マインドフルネスを行ったグループの方が良い結果でした。

つまり、睡眠を直接治療するものではないプログラムと比べると、マインドフルネスを数週間続けることで、睡眠の質が改善する可能性があるということです。

一方、すでに睡眠への効果が確認されている治療と比較した研究では、結果が違いました。

プログラムが終了した時点でも、その後5〜12か月の追跡調査でも、

「マインドフルネスの方が睡眠をより改善した」

という明確な差は確認されませんでした。

つまり、

「マインドフルネスは睡眠に役立たない」

という結果ではありません。

しかし、

「不眠に対する認知行動療法など、すでに効果が確認されている治療よりも優れている」

とも言えません。

また、18研究すべてが同じ質の研究だったわけではありません。

さらに、18研究すべてで、参加者自身が答える質問票などを使って睡眠の状態を調べていましたが、腕につけた機器などを使って客観的に睡眠を測った研究は2件だけでした。

つまり、この分析で確認された改善の多くは、

「本人が以前よりよく眠れるようになったと感じたか」

という評価をもとにしています。

そのため、

「実際に寝つくまでの時間が平均何分短くなるのか」

「睡眠時間が平均何分増えるのか」

といったところまでは、この18研究をまとめた結果からは分かりません。

ただし、18研究、合計1,654人をまとめると、マインドフルネスを数週間続けた人では、一般的な健康教育などと比べて、睡眠の質が改善する傾向が確認されています。

また、その効果はプログラム終了後だけでなく、その後の追跡調査でもみられました。

一方で、すでに効果が確認されている不眠治療よりも、さらに高い効果があるとは確認されていません。

つまり、マインドフルネスは「効果があるか分からない方法」ではなく、睡眠を改善する可能性が研究で確認されている方法の一つです。

ただし、その効果の大きさや、誰にどの程度効くのかについては、まだ分かっていない部分もあります。

まとめ:考え事が止まらないときは、意識の向け先を変える

布団に入ってから仕事や明日の予定などが次々と頭に浮かぶとき、浮かんだ考えを無理に消そうとするのではなく、自分が何を考えているのかに気づき、意識の向け先を呼吸や体の感覚へ変える方法があります。

こうした方法は「マインドフルネス」と呼ばれています。

慢性的な不眠がある人を対象にした研究では、8週間にわたってマインドフルネスを行ったグループで、布団の中で眠らずに起きていた時間や、寝る前の心身の高ぶり、不眠の重症度に改善がみられました。

また、18研究、合計1,654人をまとめた分析でも、一般的な健康教育などと比べると、マインドフルネスを数週間続けた人の方が睡眠の質が改善する傾向が確認されています。

一方で、これらの研究は、

「1回行えば、その夜すぐ眠れる」

ことを示したものではありません。

また、すでに効果が確認されている不眠治療よりも優れていると確認されたわけでもありません。

それでも、複数の研究をまとめると、考え事が止まらない夜に、意識の向け先を呼吸や体の感覚へ変える方法は、睡眠を改善する可能性のある方法の一つだと考えられます。

では、その「意識の向け先を呼吸や体の感覚へ変える」とは、実際にはどうすればよいのでしょうか。

呼吸をどのように感じればよいのか、考え事がまた浮かんできたときはどう戻ればよいのか、体の感覚にはどのような順番で意識を向ければよいのか。具体的なやり方は、こちらの記事で詳しく紹介しています。

→ 寝る前に考え事が止まらないときの対処法|呼吸と体を使った実践法

参考URL

  • 学術誌『SLEEP』:慢性的な不眠がある成人54人を3つのグループに分け、8週間のマインドフルネスを取り入れたプログラムを行い、その後3か月後・6か月後まで追跡した研究
    A Randomized Controlled Trial of Mindfulness Meditation for Chronic Insomnia
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25142566/
  • 学術誌『Annals of the New York Academy of Sciences』:マインドフルネス瞑想と睡眠について、18のランダム化比較試験、合計1,654人をまとめて分析した研究
    The Effect of Mindfulness Meditation on Sleep Quality: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30575050/
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