寝る前に音楽を聴くと眠りやすくなる?音楽と睡眠の関係

目次

寝る前の音楽は、本当に睡眠によいのか?

寝る前に好きな音楽を聴いたり、穏やかなメロディを流したりすると、気持ちが落ち着いて眠りやすくなると感じることがあります。

クラシック音楽やヒーリング音楽、自然音など、睡眠によいとされる音楽は数多くあります。しかし、音楽を聴くことで本当に睡眠の質は改善するのでしょうか。

これまでの研究では、寝る前に音楽を聴くことで、「よく眠れた」という主観的な睡眠の質が改善する可能性が示されています。

一方、脳波などを使って実際の睡眠状態を調べた研究では、入眠までの時間や睡眠時間、睡眠効率などが改善するかどうかについて、まだ十分な結論が得られていません。

つまり、音楽によって眠りに対する満足感が高まる可能性はありますが、必ずしも実際の睡眠時間が延びたり、深い睡眠が増えたりするわけではないのです。

では、科学的な研究ではどのような結果が得られているのでしょうか。

音楽と睡眠の関係を調べた研究

2022年、デンマークのオーフス大学(Aarhus University)のキラ・ヴィーベ・イェスパーセン(Kira Vibe Jespersen)准教授らは、音楽が不眠に与える影響について、過去に行われた複数の研究を総合的に分析し、その結果を発表しました。

イェスパーセン氏は、心理学や音楽療法を学び、音楽が脳や体に与える影響、特に音楽を利用した不眠の改善を専門に研究している人物です。オーフス大学の「脳と音楽研究センター(Center for Music in the Brain)」に所属し、音楽と健康の関係を研究しています。

今回の分析では、睡眠に問題を抱える成人を対象とした13件の実験、合計1,007人のデータが使用されました。

それぞれの実験では、参加者を無作為に音楽を聴くグループと、音楽を聴かないグループなどに分け、睡眠状態の違いを比較しています。

音楽を聴くグループでは、あらかじめ録音された音楽を1日25〜60分程度聴き、実施期間は3日間から3か月間でした。使用された音楽や聴く時間帯などは研究によって異なります。

睡眠の質を評価するために使われたのが、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)です。これは、寝つきや睡眠時間、夜間の睡眠の問題などを質問し、過去1か月間の睡眠状態を0〜21点で評価するものです。点数が低いほど睡眠状態がよいことを示します。

この質問票を使用した10件、合計708人の研究を分析した結果、音楽を聴いたグループでは、比較対象のグループよりもPSQIのスコアが平均2.79ポイント低くなっていました。

つまり、音楽を聴くことで、本人が感じる睡眠の質が改善する可能性が示されたのです。研究チームは、この結果について科学的根拠の確実性を「中程度」と評価しています。

一方、脳波などを使って客観的に睡眠を測定した研究は3件、合計136人に限られ、入眠までの時間や睡眠時間、睡眠効率などについて明確な改善効果は確認されませんでした。

また、音楽を聴く実験では、参加者自身が音楽を聴いていることを知っているため、期待感などが睡眠の自己評価に影響する可能性もあります。

この研究からは、寝る前の音楽が主観的な睡眠の質を改善する可能性がある一方、実際の睡眠状態への効果については、さらに検証が必要だと考えられます。

2012年には、台湾の慈済総合病院(ツーチー総合病院)の内科医、エンティン・チャン(張恩庭)氏らが、慢性的な不眠に悩む成人50人を対象とした実験を行っています。

参加者の平均年齢は32歳で、男性3人、女性47人でした。研究チームは参加者を25人ずつのグループに分け、一方には就寝時に穏やかな音楽を45分間流し、もう一方には音楽を流さずに過ごしてもらいました。

音楽は参加者自身が選んだもの、または研究者が用意したものを使用し、実験は4日間にわたって行われました。

睡眠状態は質問票に加え、ポリソムノグラフィーという睡眠検査によって測定しました。これは、睡眠中の脳波や眼球運動、筋肉の活動などを記録し、実際の睡眠状態を詳しく調べる検査です。

その結果、音楽を聴いたグループでは、起床時に十分休めたと感じる程度が改善していました。

さらに、客観的な測定では、比較的浅い睡眠段階であるステージ2の時間が短くなり、夢を見ることが多いレム睡眠の時間が長くなるという、統計的に有意な変化も確認されました。

しかし、入眠までの時間や睡眠時間、睡眠効率など、その他の睡眠指標では明確な改善効果は認められませんでした。

また、参加者は50人と比較的少なく、実験期間も短いため、音楽を長期間聴き続けた場合に同じ効果が得られるかどうかはわかりません。

これらの研究を総合すると、寝る前の音楽は「よく眠れた」という感覚を改善する可能性があるものの、実際の睡眠時間や睡眠の深さなどを改善するかどうかについては、まだ十分な科学的根拠がないといえるでしょう。

寝る前にはどんな音楽がよいのか?

結論からいうと、睡眠に最も適した音楽の種類やテンポについては、現在の研究でも明確な答えが出ていません。

クラシックやヒーリング音楽が睡眠によいといわれることがありますが、それらがほかのジャンルより優れているという十分な科学的根拠はありません。

それでは、ロックやJ-POP、ジャズなど、普段から自分が好んで聴いている音楽でも、同じような効果が得られるのでしょうか。

2020年、東海大学大学院医学研究科で音楽療法や睡眠障害について研究していた山里亜未(やまさと・あみ)氏らは、本人が好きな音楽と、研究者が指定した穏やかな音楽では、睡眠への効果に違いがあるのかを調べました。

実験には、睡眠の質に問題があると判定された18〜30歳の大学生95人が参加しました。男性43人、女性52人で、参加者は次の3つのグループに分けられました。

  • 研究者が指定した穏やかな音楽を聴く32人
  • 自分の好きな音楽を聴く33人
  • 音楽を聴かない30人

音楽を聴く2つのグループには、自宅で4週間、毎晩就寝時に40分間、音楽を聴いてもらいました。一方、音楽を聴かないグループには、就寝時に音楽を聴かず、普段どおりに過ごしてもらいました。

研究者が指定した音楽には、穏やかなクラシック音楽が選ばれました。一方、自分の好きな音楽を聴くグループでは、特定のジャンルに限定せず、参加者自身の好みに合わせて曲を選んでもらいました。

睡眠の状態は、本人が感じる睡眠の質を評価するピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を使い、実験の前後で比較しました。

その結果、音楽を聴いた2つのグループでは、どちらも主観的な睡眠の質が改善しました。一方、音楽を聴かなかったグループでは、総合的な睡眠の質に明確な改善は見られませんでした。

また、穏やかな音楽を聴いたグループと、自分の好きな音楽を聴いたグループでは、睡眠の質の改善幅に統計的な有意差は認められませんでした。

この研究から、研究者が指定した穏やかな音楽だけでなく、自分の好きな音楽でも、睡眠の質が改善する可能性が示されました。

では、実際に人々は眠るためにどのような音楽を選んでいるのでしょうか。

2023年、デンマークのオーフス大学(Aarhus University)などで音楽と脳の関係を研究するレベッカ・ジェーン・スカラット(Rebecca Jane Scarratt)氏らは、音楽配信サービス「スポティファイ(Spotify)」で、睡眠用として登録されている音楽の特徴を調べました。

スカラット氏は、オランダのラドバウド大学とオーフス大学の「脳と音楽研究センター」に所属していた研究者です。この研究には、音楽と不眠の関係を研究しているキラ・ヴィーベ・イェスパーセン氏も参加しています。

研究チームは、睡眠用プレイリスト985件から延べ225,626曲を収集し、テンポや音の強さなどを調べました。

その結果、睡眠用として登録された音楽には、静かでテンポが遅く、穏やかな曲が多いことがわかりました。

しかし、それだけではありません。収集した曲を特徴によって6つのグループに分類すると、そのうち3つには、比較的テンポが速く、エネルギッシュなポピュラーソングも含まれていました。

つまり、人々が睡眠用として選ぶ音楽は、必ずしも静かなクラシックやヒーリング音楽ばかりではなかったのです。

ただし、この研究は睡眠用として登録された音楽を調べたもので、実際にその曲を聴いて眠りやすくなったかどうかを測定したわけではありません。

これらの研究を踏まえると、寝る前に聴く音楽を特定のジャンルに限定する必要はなさそうです。

例えば、ヘビーメタルが好きな人なら、激しいギターやドラムが入った曲でも、小さな音量で流すことで落ち着いて聴けるかもしれません。反対に、クラシックが苦手な人にとっては、静かなピアノ曲でも耳障りに感じることがあるでしょう。

もちろん、好きな音楽だからといって、必ず眠りやすくなるわけではありません。音量が大きすぎたり、聴いているうちに興奮したり、メロディが頭から離れなくなったりすることもあります。

現時点では、どのジャンルやテンポが最も睡眠によいのかは明らかになっていません。特定の音楽にこだわるよりも、自分の好みを踏まえ、眠るときに気にならない音量で聴ける曲を選ぶことが現実的でしょう。

音楽がかえって睡眠を妨げることもある

寝る前に音楽を聴くことで眠りやすくなる人がいる一方、音楽がかえって睡眠を妨げる場合もあります。

例えば、好きな曲を聴いたあと、そのメロディーが頭から離れなくなった経験はないでしょうか。

音楽を止めたあとも、頭の中で同じメロディーが何度も繰り返される現象は、「イヤーワーム(Earworm)」と呼ばれています。

2021年、米国・ベイラー大学(Baylor University)で睡眠と記憶の関係を研究する心理学・神経科学者のマイケル・K・スカリン(Michael K. Scullin)氏らは、この現象が睡眠にどのような影響を与えるのかを調べました。

スカリン氏は、同大学の「睡眠神経科学・認知研究室」を率いる研究者で、睡眠が記憶や学習、認知機能に及ぼす影響を専門に研究しています。

研究チームは、まず成人199人を対象に、普段の音楽の聴き方、夜間にイヤーワームが起こる頻度、睡眠の状態についてアンケート調査を行いました。

その結果、日頃から音楽をよく聴く人ほど、就寝時や夜間にイヤーワームが起こりやすく、夜間にイヤーワームを経験する人ほど睡眠の質が悪い傾向が見られました。

さらに研究チームは、平均年齢約21歳の成人50人を対象に、実験室で実際の睡眠を測定する実験を行いました。

参加者には、就寝前に次の3曲を聴いてもらいました。

いずれも、覚えやすく印象的なメロディーを持つポピュラーソングです。

参加者は、歌手の歌声が入った通常の曲を聴くグループと、同じ曲から歌声を除いたインストゥルメンタル版(伴奏だけの曲)を聴くグループに分けられました。

そして、音楽を聴いたあとにメロディーが頭から離れなくなるかを調べるとともに、睡眠中の脳波や呼吸などを記録し、寝つくまでの時間や睡眠の状態を測定しました。

その結果、就寝時や夜間、朝の目覚めの際にイヤーワームを経験した人の割合は、歌声のある曲を聴いたグループでは28%、歌声のないインストゥルメンタル版を聴いたグループでは52%でした。

歌声のない曲を聴いたグループの方がイヤーワームを経験した人の割合は高かったものの、この差は統計的に有意と判断される基準にはわずかに届きませんでした。

一方、実際の睡眠測定では、歌声のないインストゥルメンタル版を聴いたグループの方が、寝つくまでに時間がかかり、睡眠効率も低くなるという結果が得られました。

睡眠効率とは、ベッドに入っていた時間のうち、実際に眠っていた時間が占める割合のことです。

また、就寝時や夜間にイヤーワームを経験した人は、経験しなかった人に比べて寝つくまでに時間がかかり、夜中に目が覚める回数が多く、深い睡眠が少ない傾向も確認されました。

この研究で興味深いのは、歌声のない音楽の方が、必ずしも睡眠に適しているわけではなかったことです。

一般的には、歌詞のない音楽の方が眠りやすそうに思えます。しかし、この実験では、同じ曲でも歌声のないインストゥルメンタル版を聴いた方が、睡眠の状態が悪くなりました。

音楽を聴いているときには心地よく感じていても、そのメロディーが頭の中に残り、眠りを妨げることがあるのです。

もちろん、これは特定のポピュラーソングを使った実験であり、歌声のない音楽全般が睡眠に悪いという結果ではありません。

寝る前に音楽を聴くなら、好きな曲かどうかだけでなく、聴いたあとに気持ちが落ち着くか、メロディーが頭から離れなくならないかも、一つの判断材料になるでしょう。

寝る前に音楽を聴くなら、どうすればよい?

寝る前に音楽を聴くなら、どのような点に気をつければよいのでしょうか。

これまで紹介した研究からは、クラシックやヒーリング音楽など、特定のジャンルにこだわる必要はないことがわかります。大切なのは、自分にとって心地よく、眠りを妨げない音楽を選ぶことです。

まず、音量は控えめにしましょう。

好きな音楽でも、大きな音で流していると、かえって気になったり、眠りを妨げたりすることがあります。寝る前には、無理なく聴き取れる程度の小さな音量がよいでしょう。

また、音楽を聴く時間にも気を配りたいところです。

睡眠と音楽の関係を調べた研究では、就寝時に30〜45分程度、音楽を聴いてもらう実験が多く行われています。ただし、これは研究で設定された時間であり、30分や45分聴くことが最も効果的だと証明されているわけではありません。

音楽を一晩中流し続ける必要もありません。眠るまでの間だけ聴きたい場合は、スマホや音楽再生アプリのスリープタイマーを利用すると便利です。

曲の選び方についても、自分の反応を確かめてみましょう。

穏やかな曲でも、聴いていて退屈だったり、気になったりするなら、無理に選ぶ必要はありません。反対に、普段から好きな曲でも、つい歌いたくなったり、気分が高まったりするなら、寝る前には向いていないかもしれません。

特に、聴き終わったあともメロディーが頭の中で繰り返される場合は、別の曲に変えるか、音楽を聴く時間帯を少し早めてみるのも一つの方法です。

そして、音楽を聴くこと自体が睡眠の妨げにならないようにすることも大切です。

スマホで音楽を再生する場合、曲を探しているうちに動画やSNSを見始めてしまっては、本来の目的から外れてしまいます。寝る前に聴く曲をあらかじめ決めておけば、余計な操作を減らせるでしょう。

また、イヤホンやヘッドホンを使う場合は、耳への圧迫感や寝返りのしにくさにも注意が必要です。装着したまま眠ることに違和感があるなら、小さな音量でスピーカーから流す方法もあります。

何より、音楽を聴かなければ眠れないと考える必要はありません。

音楽を聴いて心地よく眠れるのであれば、それを寝る前の習慣に取り入れてもよいでしょう。一方、静かな環境の方が眠りやすいのであれば、無理に音楽を流す必要はありません。

自分が自然に眠りにつける方法を選ぶことが大切です。

まとめ:寝る前の音楽は、心地よく眠るための選択肢の一つ

寝る前に音楽を聴くことは、睡眠の質を改善する方法の一つとして期待されています。

実際に、複数の研究では、音楽を聴いた人の方が、聴かなかった人よりも主観的な睡眠の質が改善するという結果が報告されています。

また、睡眠によい音楽は、必ずしもクラシックやヒーリング音楽に限られるわけではありません。自分の好きな音楽でも、睡眠の質が改善する可能性が示されています。

一方で、聴いた曲のメロディーが頭から離れなくなる「イヤーワーム」によって、かえって睡眠が妨げられることもあります。

寝る前に音楽を聴くなら、特定のジャンルにこだわるよりも、自分にとって心地よく、気持ちが落ち着く曲を選ぶことが大切です。音量は控えめにし、必要に応じてスリープタイマーを使うのもよいでしょう。

そして、音楽を聴かなくても眠れるのであれば、無理に取り入れる必要はありません。

音楽は、眠るために欠かせないものではなく、心地よく眠るための選択肢の一つなのです。

寝る前に気持ちを落ち着かせる方法は、音楽だけではありません。本を読むことも、就寝前の過ごし方の一つです。

では、寝る前の読書は、実際に睡眠にどのような影響を与えるのでしょうか。

→  寝る前に本を読むと眠りやすい?読書と睡眠の関係

参考URL

  • デンマーク・オーフス大学:睡眠に問題を抱える成人1,007人を含む13件の研究を分析し、音楽が不眠や睡眠の質に与える影響を調べた2022年の研究Listening to music for insomnia in adultshttps://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9400393/
  • デンマーク・オーフス大学:音楽配信サービスSpotifyの睡眠用プレイリスト985件、延べ225,626曲を分析し、睡眠用として選ばれる音楽の特徴を調べた2023年の研究The audio features of sleep music: Universal and subgroup characteristicshttps://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9847986/
  • 台湾・慈済総合病院:慢性的な不眠に悩む成人50人を対象に、就寝時に45分間音楽を聴くことが睡眠の状態に与える影響を、睡眠検査と質問票で調べた2012年の研究The effects of music on the sleep quality of adults with chronic insomnia using evidence from polysomnographic and self-reported analysis: A randomized control trialhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22494532/
  • 日本・東海大学:睡眠の質に問題がある大学生95人を対象に、研究者が指定した穏やかな音楽と、本人が好きな音楽の睡眠への効果を比較した2020年の研究How Prescribed Music and Preferred Music Influence Sleep Quality in University Studentshttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33300592/
  • 米国・ベイラー大学:成人199人へのアンケート調査と50人を対象とした睡眠実験を行い、メロディーが頭から離れなくなる「イヤーワーム」と睡眠の関係を調べた2021年の研究Bedtime Music, Involuntary Musical Imagery, and Sleephttps://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8641138/
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