寝る前に「今後やること」を書いた研究
2018年、米国ベイラー大学のマイケル・K・スカリン(Michael K. Scullin)氏らは、18〜30歳の健康な成人57人を対象に、寝る前に「今後やること」を書く場合と、「すでに終えたこと」を書く場合で、眠りにつくまでの時間に違いが出るかを調べました。
参加者は2つのグループに分けられました。それぞれのグループには寝る前の5分間にあることを書いてもらいました。
一方のグループには、「明日と、その後の数日間にやらなければならないこと」を、もう一方のグループには、「その日に終えたことと、その前の数日間に終えたこと」を書いてもらいました。
その後、参加者にはその後、脳波などを測る睡眠検査を行い、実際に眠りにつくまでの時間を調べました。
その結果、「明日と、その後の数日間にやらなければならないこと」を書いたグループの方が、「その日に終えたことと、その前の数日間に終えたこと」を書いたグループよりも、眠りにつくまでの時間が短くなりました。
さらに、今後やることをより具体的に詳しく書いた人ほど、早く眠る傾向もみられました。
つまり、この研究では、すでに終えたことを振り返るよりも、これからやることを寝る前に具体的に書き出した方が、眠りにつきやすかったという結果になりました。
ただし、この研究の対象は18〜30歳の健康な成人57人です。不眠症の人を対象にした研究ではなく、この一つの研究だけで「寝る前に予定を書けば誰でも早く眠れる」とまでは言えません。
なぜ、予定を書き出すと眠りやすくなるのか
ここは、はっきり分けて考える必要があります。
ベイラー大学の研究では、予定を書いた人の方が早く眠ったことは確認されています。
しかし、「なぜ早く眠れたのか」まで直接調べたわけではありません。
考えられている理由のひとつが、頭の中に残っている情報を紙に書き出すことで、覚えておかなければならない負担が減ることです。
明日やらなければならないことを頭の中だけで覚えておこうとすると、
「忘れないようにしなければ」
「あれもやらなければ」
と、何度も思い出してしまうことがあります。
それを紙に書いておけば、少なくとも頭の中だけで何度も覚え続ける必要は減ります。
私たちは、これからやることを忘れないように、一時的に頭の中に置いておくことがあります。こうした働きは「ワーキングメモリ(作業記憶)」と呼ばれます。
ただし、今回の研究では、このワーキングメモリそのものを測ったわけではありません。
また、人は終わっていないことや、まだやらなければならないことを頭に残しやすいとされています。
そのため、これからやることを具体的に書いて整理しておくことで、布団に入ってから何度も同じ予定を考える時間が減る可能性があります。
ただし、
「紙に書けばワーキングメモリが解放される」
「脳の覚醒が一気に下がる」
とまで、この研究だけから言い切ることはできません。
不安を書き出す場合はどうなのか
予定を書くこととは別に、不安や心配事を紙に書き出す方法もあります。
その代表的なものが「エクスプレッシブ・ライティング」です。
これは、自分が抱えている不安や怒り、つらい出来事などを言葉にして書き出し、頭の中にある感情や考えを整理することで、気持ちの負担を軽くしたり、ストレスを和らげたりすることを目的とした方法です。
この方法が、ストレスや気分、睡眠にどのような影響を与えるのかについて、心理学の分野で研究が行われてきました。
その中には、寝る前に心配事や感情を書いた場合、睡眠がどう変わるかを調べた研究もあります。
睡眠状態がよくない人を対象にした研究では、心配事や感情を書いた人で、眠りにつくまでの時間が短くなったという結果が報告されています。
一方、不眠症の人を対象にした別の研究では、寝る前の考え事には変化がみられたものの、眠りにつくまでの時間には明確な違いが確認されませんでした。
つまり、「不安を書けば必ず眠りやすくなる」とまでは言えません。
また、「明日以降にやることを書く」のと、「不安や感情を書く」のは同じ方法ではありません。
前者はこれからの予定を整理すること、後者は自分の感情や心配事を言葉にして
整理し、気持ちの負担やストレスを軽くすることを目的としています。
睡眠への影響についても、分けて考えた方がいいでしょう。
布団の中ではなく、入る前に書く
書く場所にも注意した方がよさそうです。
不眠症の治療には、薬だけでなく、眠れないときの考え方や行動を見直していく方法もあります。こうした治療は「認知行動療法」と呼ばれ、その中に「刺激制御療法」という方法があります。
刺激制御療法は、特定の刺激と反応の結びつきを調整していく考え方と方法です。
睡眠の場合は、「布団に入る」という刺激と、「目が冴える」「考え事を始める」といった反応が結びついてしまわないようにします。
たとえば、布団の中で長い時間眠れずに過ごしたり、考え事をしたりすることを何度も繰り返していると、布団に入ること自体が、目が冴えたり考え事を始めたりするきっかけになることがあります。
そのため、眠れない状態が続く場合には、いったん布団から出て、再び眠くなってから戻る方法が使われます。
こうすることで、「布団=目が冴える場所」ではなく、「布団=眠る場所」という関係を保ちやすくします。
今回のように、明日の予定や不安を書き出す場合も、布団の中で長く考えながら書くのではなく、布団に入る前に別の場所で書く方が、この考え方には合っています。
もし布団に入ってから予定や不安が次々と浮かんできた場合には、そのまま布団の中で考え続けず、いったん布団から出ます。
そこで、頭に浮かんでいることを書き出し、再び眠くなってから布団に戻ります。
無理に「考えないようにしよう」とするのではなく、考える時間と眠る場所をできるだけ分ける、という考え方です。
書くときのポイント
これからの予定を書く場合は、「仕事」「買い物」といった大まかな言葉だけではなく、これから何をするのかが分かるように具体的に書きます。
ベイラー大学の研究でも、今後やることをより具体的に詳しく書いた人ほど、早く眠る傾向がみられました。
一方、不安や心配事を書き出す場合には、予定を書く場合とは目的が違います。
こちらは、自分が何を気にしているのか、何に不安や怒りを感じているのかを、言葉にして外に出す方法です。
予定を書く場合も、不安を書く場合も、きれいな文章にまとめる必要はありません。人に見せるための文章ではないので、自分に分かる形で書けば十分です。
また、どちらの場合も、「長く書けば書くほど効果が高くなる」と分かっているわけではありません。
まとめ:予定は具体的に、不安はそのまま書き出す
寝る前に「明日と、その後の数日間にやらなければならないこと」を書き出すことで、眠りにつきやすくなる可能性があります。
2018年、米国のベイラー大学のマイケル・K・スカリン(Michael K. Scullin)氏らは、18〜30歳の健康な成人57人を対象に、寝る前に「今後やること」を書く場合と、「すでに終えたこと」を書く場合で、眠りにつくまでの時間に違いが出るかを調べました。
参加者には、寝る前の5分間に決められた内容を書いてもらいました。
一方のグループには、「明日と、その後の数日間にやらなければならないこと」を、もう一方のグループには、「その日に終えたことと、その前の数日間に終えたこと」を書いてもらいました。
その後、脳波などを測る睡眠ポリグラフ検査を行い、実際に眠りにつくまでの時間を調べました。
その結果、今後やることを書いたグループの方が、すでに終えたことを書いたグループよりも、眠りにつくまでの時間が短くなりました。
さらに、今後やることをより具体的に詳しく書いた人ほど、早く眠る傾向もみられました。
ただし、この研究だけで「寝る前に予定を書けば誰でも早く眠れる」とまでは言えません。また、なぜ早く眠れたのかについても、この研究だけでははっきり分かっていません。
一方、不安や心配事を書き出す方法としては、「エクスプレッシブ・ライティング」と呼ばれる方法があります。
これは、自分が抱えている不安や怒り、つらい出来事などを言葉にして書き出し、感情や考えを整理することで、気持ちの負担を軽くしたり、ストレスを和らげたりすることを目的とした方法です。
睡眠への効果については、眠りにつくまでの時間が短くなった研究もあれば、明確な違いが確認されなかった研究もあります。
そのため、「不安を書けば必ず眠りやすくなる」とは言えません。
また、予定を書くことと、不安や感情を書くことは同じ方法ではありません。予定を書く場合は、これから何をするのかを具体的に書き、不安を書く場合は、自分が何を気にしているのか、何に不安や怒りを感じているのかを書き出します。
どちらの場合も、きれいな文章にまとめる必要はありません。人に見せるための文章ではないので、自分に分かる形で書けば十分です。
そして、書く場所にも注意が必要です。
不眠症の治療には、眠れないときの考え方や行動を見直す「認知行動療法」があり、その中に「刺激制御療法」という方法があります。
刺激制御療法は、特定の刺激と反応の結びつきを調整していく考え方と方法です。
睡眠の場合は、「布団に入る」という刺激と、「目が冴える」「考え事を始める」といった反応が結びついてしまわないようにします。
そのため、予定や不安を書き出すのであれば、布団の中で長く考えながら書くのではなく、布団に入る前に別の場所で書く方が、この考え方には合っています。
もし布団に入ってから予定や不安が次々と浮かんできた場合には、そのまま布団の中で考え続けず、いったん布団から出て、再び眠くなってから戻る方法があります。
寝る前に予定や不安が頭から離れない人にとって、書き出すことは、試してみることのできる方法のひとつです。
では、書き出してもなお考え事が止まらないときは、どうすればいいのでしょうか。
そんなときには、考えを無理に消そうとせず、意識の向け先を呼吸や体の感覚へ変える方法もあります。
→ 考え事が止まらない夜、意識を呼吸や体に向けると眠りやすくなる?
参考URL
- 米国・ベイラー大学:寝る前の5分間に「明日と、その後数日間にやらなければならないこと」を書いた場合と、「その日と、その前の数日間に終えたこと」を書いた場合で、眠りにつくまでの時間を比較した研究
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29058942/ - 学術誌『Behavioral Sleep Medicine』:睡眠状態がよくない人を対象に、寝る前に心配事や感情を書き出すことで、眠りにつくまでの時間や睡眠状態が変わるかを調べた研究
The Efficacy of a Pennebaker-like Writing Intervention for Poor Sleepers
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15600133/ - 学術誌『Behavioral Sleep Medicine』:不眠症の人を対象に、寝る前に心配事や感情を書き出すことで、寝る前の考え事や眠りにつくまでの時間が変わるかを調べた研究
An Experimental Assessment of a Pennebaker Writing Intervention in Primary Insomnia
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19330582/ - 米国睡眠医学会(AASM):慢性不眠症に対する認知行動療法や、刺激制御療法などについてまとめた臨床ガイドライン
Behavioral and Psychological Treatments for Chronic Insomnia Disorder in Adults: An American Academy of Sleep Medicine Clinical Practice Guideline
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7853203/
